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SEPを巡る日欧での議論 Dissimilar SEP discussions in Japan and EU 

更新日:2021年5月9日

2021-May-07 今年に入りSEPを巡るOnline議論が日欧で同時期に進行しているが、興味深いことに両者の議論は対照的で、両国・地域における知的財産への考え方の違いが色濃くでているように見える。

1)日本における議論

 SEP議論の中心となっているのは、内閣府知財戦略本部構想委員会と経済産業省競争環境整備室の2つであるが、議論が進行中なのは経済産業省経済産業政策局競争環境整備室/知的財産政策室の「標準必須特許のライセンスを巡る取引環境の在り方に関する研究会」である。同研究会は本年3月から始まり、4月9日には第3回会合(注1)が行われたが、今月24日には第4回が開かれる予定である。この会合の現在の議論の中心は、「交渉過程に関する当事者間での情報提供等のルールの必要性の有無等」で、その背景にはSEPは知財のなかでも強力な交渉ツールとなりえるので、実施者としてはライセンス取引の方法に問題があり、是正されなければならないという考えがある。日本での議論では権利者より実施者の意向が目立ち、SEPがイノベーションの創出に阻害要因となると考える意見が依然根強いことが伺える。

 海外報道も日本におけるSEP議論が特異であることから、議論の推移に関心を寄せこれまでIAM誌、知財ブログ(複数)などで報道があった。最近では4月28日付けの英国競争法有力専門紙"PaRRが"Japan's automakers seek more transparency on SEP licensing practices"と題する記事を掲載し、自工会(JAMA)が3月29日内閣府知財戦略本部第5回構想委員会で行ったプレゼンテーション(注2)を引用し、MPEG-LAとの比較で行ったライセンス条件などの開示の違いについて、誤謬があると個別に指摘するAvanciのコメントを載せている。また、PaRR紙も独自に日本の関係企業及び日本人弁護士に取材を行い、JAMAプレゼンに誤謬があったことを記事に述べる。JAMAはPaRRに回答をしていない。


2)欧州における議論

 欧州では欧州委員会(EUDG-GROW)を中心に進行し、2017年の”Setting out the EU approach to SEPs”以来、Experts Groupでの議論を経て、2020年には”2020 action plan on intellectual property”(IP Action Plan(注3) が発表された。3年の議論を総括するため、昨年12月からEUDG-GROWは欧州関係機関、企業を中心とするオンライン会議(Weninar)が3回実施され、今月19日には第4回が”Enforcement of Standard Essential Patents - current bottlenecks and possible solutions”が開かれる予定である。Webinarは招待ベースで欧州中心であるが、海外機関、企業も招待され、多くのセッションプレゼンがあるが、日本からは特許庁、NTTドコモも招待された。米国企業、中国企業のプレゼンもあり、毎回600名以上が参加している(筆者も参加をしている)。

 この一連のシリーズ会合の背景には知財が欧州の発展を支える基盤で、IPR-intensive industriesがEUのGDPの45%を担い、雇用の30%に貢献しているなどのポジティブな認識があり(注4)、欧州特許(EP)登録件数は2010年58,000件から2019年には137,000件に増大したこともその証左とされる。

  ※日本の特許登録件数:2010年223,000件、2019年178,000件

 そのためEUには堅固なIPフレームワークの必要性が共通認識として存在する。知財のなかでもSEPは重要視されており、たとえばEU方針”Setting out the EU approach to SEPs”(2017)では2つの目的をあげ、①トップテクノロジーの標準化への貢献を促進するため、イノベーターに公正で十分な対価を保証すること、②フェアな条件での標準の採用と普及を掲げて、まずSEPとイノベーションの連携を確認している。 SEPがすでに95,000件出願される(注5)なか5Gはさまざまな意味で最重要な議論のテーマとなっている。


日本と欧州での一連のSEP議論を見ると、日本ではSEPに対する規制の有無が中心で、欧州ではどうSEPのメリットを強化しようかというもので、両者の議論の方向性は異なっているように見える。

(注2)JAMAプレゼンテーションは内閣府の議事資料のなかに公開掲載中http://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/2021/dai5/siryou5.pdf

なお、3月29日の内閣府構想委員会リンクはhttp://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/tyousakai/kousou/2021/dai5/gijisidai.html

(注4) 同上 IP Action Plan2020 p.1

(注5)”Fact finding study on patents declared to the 5G standard“, IPlytics, 2020.

”COMMUNICATION FROM THE COMMISSION TO THE EUROPEAN PARLIAMENT, THE COUNCIL AND THE EUROPEAN ECONOMIC AND SOCIAL COMMITTEE, Setting out the EU approach to Standard Essential Patents “2017-11-29 COM(2017)712 final, P.2

(a) incentivising development and contribution to standards of ‘top technologies’ by ensuring a fair and adequate return for innovators, and (b) ensure the broad dissemination and adoption of standards based on fair access conditions.


Photo: WIX


 
 
 

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