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 (速報)Pantech v Google 東京地裁判決全文公開  Publication of Judgment: Pantech v Google in Tokyo D. Court(Full text)

更新日:2025年10月5日

東京地方裁判所民事第40部(裁判長裁判官中島基至、裁判官武富可南、裁判官坂本達也 ) 判決文は69ページあるが、全文のリンクは

ブログ文末にPDFも付ける

 

1. 事件の概要

令和7年(2025年)6月23日、東京地方裁判所民事第40部は、PantechがGoogleに対して提起した特許権侵害差止請求事件(令和5年(ワ)第70501号)について判決を言い渡した。本件は、日本で初めて標準必須特許(SEP)に基づく差止請求が認められた事例であり、国内外の実務・学説の双方から大きな注目を集めている。

判決から約3か月後に69頁に及ぶ全文が公開された。一部には伏字があるものの、事案の経過および裁判所の判断枠組みはほぼ全面的に明らかとなっており、比較法的視点からの検討を可能にする内容となっている。

 

2. 当事者間の交渉経過

裁判所認定事実に基づくと、経過は大きく三段階に整理できる。

第一段階(2020年6月〜2022年8月) 訴訟に至るまでの交渉

Pantechは2020年6月12日、Googleに対しライセンス交渉を提案する書簡を送付。その後、特許番号やクレームチャート、NDAをめぐる協議が続き、2022年8月17日にPantechが仮処分を申し立てるに至った(P.7)。この間、双方は具体的な特許番号・クレームチャート・NDA締結をめぐり交渉を継続した。

 

第二段階(2021年〜2023年前半) ライセンス条件のやり取り

2021年11月2日にPantechが原案を提示し(P.54)、2022年3月4日にGoogleが対案を提出(P.26, P.55)。以降も双方が複数回の再提案を行った。特筆すべきは、2023年6月30日、東京地裁が先行する仮処分事件で「被告にはFRAND条件でライセンスを受ける意思がある」と認定し、差止請求を権利濫用として却下した点である(P.7)。

 

第三段階(2024年 和解勧告以降) 

2024年7月23日、裁判所は侵害の心証を開示した上で、グローバルSEPポートフォリオを前提とした和解協議を勧告。当事者双方は応諾の姿勢を示したものの、9月6日にGoogleが提示した和解案は、販売台数・価格の非開示、スマートフォン販売価格を基礎とした算定、ロイヤリティの上限を部品代に限定する方式などを含み、大合議判決の趣旨と矛盾するとして裁判所に否定された(判決P.34-35)。その後も裁判所は大合議方式(最終製品売上高を出発点とする算定)に沿った再提示を求めたが、Googleは応じず’(P.58)、12月時点で和解協議は打ち切られた(P.59)。

 

3. 法的評価と比較法的含意

本件判決の核心的論点は、Googleの行為を「FRAND条件に基づくライセンスを受ける意思の存在」と評価できるか否かにあった。 

欧州裁判例においては(例:ドイツ連邦裁判所BGH「Huawei v. ZTE」、オランダやUPCの下級審判例)、実施者の交渉態度を「willing/unwilling」に区別し、差止請求の可否を制御する枠組みが確立している。特にドイツでは、応答の遅延や開示不足は「unwilling」とされる傾向が強い。

これに対し、日本の裁判所は交渉の手続・時期に関して相対的に緩やかな評価を採用し、本件でもGoogleを「ライセンスを受ける意思を有する者」と認定した。この判断傾向は、中島裁判長が主宰した別のSEP事件(Pantech v. Asus、令和4年(ワ)第7976号、2025年4月10日判決)においても同様に確認される。https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/200/094200_hanrei.pdf

 

もっとも、この判断が国際的基準と整合的かどうかは議論の余地がある。欧州の厳格な「FRANDダンス」と比較すると、日本のアプローチは交渉態度に対する寛容性が非常に高く、結果としてSEP権利者の交渉上の圧力を弱める可能性がある。

その背景には、日本でのSEP訴訟の蓄積不足と、2014年大合議判決(アップル対サムスン事件)に示された規範の存在がある。同判決は次の原則を示した。すなわち「実施者がライセンスを受ける意思を有することを主張立証できれば、差止請求は民法1条3項の権利濫用に当たり許されない」とし、その「ライセンス意思の不存在の認定は厳格に行われるべき」とされ、いわゆるホールドアウト行為は排除し難い規範とされた。

 

4.結語

本件判決がSEP差止請求を初めて認めた点は、日本におけるSEP訴訟実務において画期的な一歩である。本件は現在知財高裁に控訴されており、同裁判所が「willing/unwilling」の判断基準をどの程度厳格化するかは未だ不透明である。国際的に主要裁判所がFRAND論を緻密に積み上げている中、日本の裁判所が比較法的成果をどう取り込みできるか今後の大きな課題であり、本判決がその端緒として、SEP判例の蓄積拡大に資する契機となるかの試金石であろう。

 

ディスクレーマー

本稿における分析・見解は、すべて筆者個人の独自の考察に基づくものであり、法的助言や確定的な法解釈を示すものではありません。学術的検討および情報提供のみを目的としており、実務上の判断や対応については必ず専門家の助言を求められることを推奨いたします。


Photo: WIX Gavel


 

 

 
 
 

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