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インド最高裁で知財訴訟迅速化判例 Indian Supreme Courts Issues Landmark Ruling to Fast-Track IP Cases

インド最高裁で知財訴訟手続に関する重要な判例がでた。現在継続中のSEP事案80件にも影響を及ぼす。

2025年10月27日付で言い渡されたインド最高裁判決(Novenco Building and Industry A/S v. Xero Energy Engineering Solutions Pvt. Ltd.)に関する解説を、インドの知財事情に詳しいコンサルティングファーム AsiaWise Professionals の奥啓徳氏よりいただいた。


November 3, 2025 by Yoshinori Oku


【速報】インド最高裁、知財訴訟の訴訟前調停を免除判決

― 緊急性テストの明確化と、SEP訴訟への実務的波及 ―


■ 事件概要

本件は、デンマーク企業 Novenco が開発した高効率産業用ファン「ZerAx」に関し、元販売代理店であった Xero Energy Engineering Solutions Pvt. Ltd. とその関連会社 Aeronaut Fans Industry Pvt. Ltd. が類似製品を製造・販売したとして、差止等の仮処分を含む商事訴訟を提起した事案である。


下級審(ヒマーチャル・プラデシュ高裁)は、Novencoの提訴までの遅れを理由に「緊急性を欠く」と判断し、Commercial Courts Act 第12A条 に基づく訴訟前調停(Pre-Institution Mediation)を経ていないことを理由に訴えを却下した。 これに対し、最高裁(二裁判官合議体:Sanjay Kumar判事・Alok Aradhe判事) はこれを覆し、訴えの続行を命じた。


■ 第12A条の位置づけと全国統一の意義

民事裁判の遅延解消と企業間紛争の迅速処理を目的に、商務裁判所法(Commercial Courts Act, 2015) が制定された。しかし、制度導入後も提訴件数は増加を続け、裁判所の負担は依然として重かったため、2018年改正で第12A条として**「訴訟前調停(Pre-Institution Mediation)」**が導入された。


同条は、緊急の暫定救済を伴わない訴訟では提訴前に調停を行うことを義務付けているが、差止請求を含む知財訴訟の取扱いをめぐり高裁間で運用が分かれていた。

デリー・ボンベイ高裁では(訴訟前調停)免除を慣行としていた一方、他の管轄では調停を求める例もあり、最高裁が今回、全国的に統一的な運用原則を示した点に大きな意義がある。


■ 最高裁の判断 ― 「真に緊急救済を見込む訴訟」に限り調停免除

最高裁は、知的財産侵害を**「継続的侵害(continuing infringement)」**と捉え、侵害の性質上、損害が日々新たに発生するため、緊急性を“内在し得る”とした。したがって、発見から提訴まで一定の期間が経過していても、そのことだけを理由に緊急性を否定し、訴訟前調停を強制するのは誤りであると判断した。もっとも、継続的侵害だからといって常に免除されるわけではない。

「真に緊急救済を見込む訴訟」であることを、訴状や証拠から具体的に示す必要があるとした。緊急性の判断では、救済の当否そのものではなく、原告の提出資料に照らして緊急救済が客観的に見込まれるかを審査する。

この運用指針は、次のように整理できる。

  • 知財侵害は、製造・販売等の各行為が新たな不法行為であり、毎日新たな損害が発生するという性質上、緊急性を“内在し得る”。

  • したがって、発見から提訴までの期間があっても、そのことだけを理由に緊急性を否定して第12A条調停を(権利者に)強制してはならない。

  • ただし継続的侵害だから常に免除ではなく、訴状や証拠が継続性・回復困難性・即時救済の必要性を具体的に示しているかが鍵となる。


     (例:継続販売の証跡、顧客混同や信用毀損の顕在化、在庫拡散や証拠隠滅の危険など)

最高裁は、形式的な遅延のみで訴えを排除する下級審の判断を退け、「緊急性テスト」を明確に運用基準として位置づけた。


■ SEP訴訟への波及 ― 実務上の2つのポイント

今回の最高裁判断は、現在インドで係属中の約80件の標準必須特許(SEP)訴訟にも直接的に影響する。

・FRAND交渉決裂後に原告が迅速に差止を求める実務が、最高裁の原則によって正面から裏付けられた。 これまでSEP訴訟では、被告に通知が届く訴訟前調停を経ず、 Caveat提出を防ぐために直接デリー高裁へ提訴する運用が定着していた。 今回の判決により、この運用が法的に適法であることが確定した。

・権利者側は訴訟移行を迅速化しやすくなる一方、 実施者側は交渉段階から防御準備を前倒しする必要が高まった。 具体的には、早期のCaveat提出、証拠保全、供給計画・在庫管理の見直しが重要となる。


■ まとめ

本判決は、知財訴訟における第12A条調停の適用範囲を初めて最高裁レベルで明確化し、SEP訴訟を含む特許侵害訴訟の実務を裏付ける統一的な判断基準を示した。今後は、権利者・実施者双方にとって、FRAND交渉段階からのスピード対応と訴訟戦略の精緻化が一層求められる。


判決原文(PDF)IN THE SUPREME COURT OF INDIACIVIL APPELLATE JURISDICTIONCIVIL APPEAL NO. OF 2025 (@ OUT OF S.L.P. (C) NO. 2753 OF 2025)

(添付ファイル:SC_Judgement_27-Oct-2025.pdf


寄稿:AsiaWise Professionals 奥 啓徳

Photo: Unsplashi, Naveed Ahmed
Photo: Unsplashi, Naveed Ahmed

 
 
 

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