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(中) 中国最高人民法院が10大知財判例発表 Chinese SPC 10 IP Major Cases Announced

更新日:2023年4月28日

中国最高人民法院は「2022年の中国法院10大知的財産案件及び50の典型知的財産判例」を4月20日に公表した。

2022年に最高人民法院で結審し​​た事件(昨年は3,468件)から重要事案を毎年解説公表している。

今年もそのなかにSEP関連の判例が一件含まれていた(1696号事件)。中国企業同士の事案であるが、業界標準をめぐる係争で最高人民法院は一審の判決を覆し、SEP権利者とSEP実施者の行為を比較考量し、被告(実施者)の過失が大きいとして、10万元(日本円で約200万円)の賠償のみを認めていた第一審判決を破棄し、原告(権利者)の請求どおり300万元(同約6000万円)の賠償を認めた。

 原告:徐某(個人)、寧波路宝科技実業集団有限公司

 被告:河北易徳利ゴム製品有限責任公司及び河北冀通路橋建設有限公司

 事案:特許権侵害紛争事件((2020)最高法知民终1696号)


小野寺良文弁護士(森・濱田松本法律事務所, パートナー)から本事案に関する詳しい解説記事をいただいたので転載させていただくとともに深謝する。(2023.04.28 15:00一部補足加筆)


本事案は「推奨標準に関連する必須特許(国、業界又は地方の推奨標準が関連する必須特許の情報を明示したもの)」で、業界標準と見られるが、現在係争中の旧日立金属事件での国家標準とは異なるようである。しかし、今回のような高速道路の橋梁規格の業界推奨標準においても、SEPを巡る誠実交渉義務と同様の解釈が行われており、中国においてはどのように権利者、実施者は振る舞わなければならないか重要な教唆を与えている。


本事案についての小野寺弁護士の解説と参考情報(原文のまま)

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中国最高人民法院が2022年の10大知財判例及び50の典型判例を発表


2023年4月20日、中国の最高人民法院は、2022年の10大知財判例及び50の典型判例のを公表した(https://www.court.gov.cn/zixun-xiangqing-397162.html)。

このうちSEPに関連するものは、徐某(個人)、寧波路宝科技実業集団有限公司v.河北易徳利ゴム製品有限責任公司、河北冀通路橋建設有限公司の特許権侵害紛争事件((2020)最高法知民終1696号)の1件であった(判決全文:https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2024.html)。

 最高人民法院の定める司法解釈である「特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)」第24条2項は、SEPについて、「国、業界又は地方の推奨標準が関連する必須特許の情報を明示しており、特許権者と権利侵害で訴えられた者が当該特許の実施許諾条件を協議する際に、特許権者が故意にその標準制定において承諾した公平、合理、非差別の許諾義務に違反し、これにより特許実施許諾契約を締結できなくさせ、かつ権利侵害で訴えられた者に協議中に明確な過失がない場合には、権利者による標準実施行為の差止めを求める主張については、人民法院は原則としてこれを支持しない。」と定めている。つまり中国では技術標準に明示された標準必須特許について、上記司法解釈に基づき特許権者にFRANDライセンス義務が課されており、一方、実施者の側にも過失なく誠実に協議に応ずる義務が課されている。

 本件判決では、原告徐氏が特許権者であり、もう一方の原告であり同氏が保有する路宝社に対して本件特許の独占的な無償ライセンスを付与していたが、特許権者またはその独占実施権者が対外的に公平で合理的で差別のない許可義務を負う限り、FRAND原則に反することはなく、原告らは被告易徳利社にライセンス契約を提案するなどFRAND義務を果たしているから、原告らに過失は存在しないと認定した、一方問題となった業界標準に原告の特許が明記されていたこと、原告が被告易徳利社に対して警告していたことを重視し、被告易徳利社が本件特許の存在を知りながら、自ら積極的に実施許諾を求めなかったこと、本訴の係属中も特許を実施していたことを重視し、被告易徳利社の過失が大きいとして、10万元(日本円で約200万円)の賠償のみを認めていた第一審判決を破棄し、懲罰的損害賠償(2倍)を適用して、原告の請求どおり侵害行為の差止め、被告易徳利社に対する300万元(同約6000万円)の賠償を認めた。一方、注文主であった被告冀通路社に対する請求については、同社が特許侵害であることを知らずに、適切な対価を支払っていた事等を理由として、中国特許法70条(いわゆる合法的出所)の抗弁を認め、賠償責任を負わない旨判示した。本判決は、SEPにおける差止め請求及び損害賠償請求において、FRANDの原則に照らし当事者の過失を重点的に考慮し、過失のない行為者を保護する姿勢を鮮明にしたものと評価される。


参考情報:(日本語訳)路宝社 v. 冀通社

3.「伸縮縫合装置」標準必須特許侵害事件

【徐某及び寧波路宝科技実業集団有限公司(以下「路宝社」)V. 河北易徳利ゴム製品有限責任公司(以下「易徳利」)、河北冀通路橋建設有限公司(以下「冀通社」)」の特許権侵害紛争事件】

【案件番号】(2020)最高法知民終1696号

【概要】徐某(某は中国の個人名を隠すための「なにがし」)は、特許番号200410049491.5(発明の名称は「特大耐撓変櫛型橋梁伸縮縫合装置」)の特許権利者である。係争特許は交通運輸部が発表した「ユニット式多方向変位櫛形板橋梁伸縮縫合装置」業界の推薦性基準の標準必要特許である。特許権者の徐氏と同氏が法定代表者である係争特許の独占的実施権者の路宝社は、冀通社は、平讃高速道路工事において、易徳利社が上記基準に基づいて製造し販売した伸縮縫合装置を使用し、両社は係争特許権の侵害を構成しているとして、河北省石家荘市中級人民法院に訴訟を提起した。その請求は、両社に侵害を停止し、共同で損失を賠償し、権利擁護のための合理的な支出300万元を請求するというものである。一審裁判所は、易徳利公司、冀通公司が係争中の特許権を侵害していると認定し、易徳利公司に経済損失の賠償と権利維持のための合理的な支出10万元(200万円)を判決した。徐某、路宝会社は、これを不服として控訴した。


(中国語原文)路宝社 v. 冀通社

3.“伸缩缝装置标准必要专利侵权案【徐某、宁波路宝科技实业集团有限公司与河北易德利橡胶制品有限责任公司、河北冀通路桥建设有限公司侵害发明专利权纠纷案】

【案号】(2020)最高法知民终1696号

【基本案情】徐某系专利号为200410049491.5、名称为一种特大抗挠变梳型桥梁伸缩缝装置的发明专利权利人。涉案专利为交通运输部发布的《单元式多向变位梳形板桥梁伸缩缝装置》行业推荐性标准的标准必要专利。专利权人徐某及其任法定代表人的涉案专利独占被许可人路宝公司认为,冀通公司在平赞高速公路工程中,使用了易德利公司按照上述标准制造并销售的伸缩缝装置,两公司构成对涉案专利权的侵害,遂向河北省石家庄市中级人民法院提起诉讼,请求判令两公司停止侵害并共同赔偿损失及维权合理开支300万元。一审法院认定,易德利公司、冀通公司侵害涉案专利权,判决易德利公司赔偿经济损失及维权合理开支10万元。徐某、路宝公司不服,提起上诉。最高人民法院二审认为,涉案专利为标准必要专利,推荐性标准中明确披露了涉案专利技术方案、专利号及权利人联系方式,且路宝公司曾于2016年函告易德利公司涉嫌侵害涉案专利权。易德利公司明知涉案专利的存在,非但没有主动寻求专利许可,还再次未经许可实施涉案专利,主观上存在明显过错。遂改判全额支持权利人300万元赔偿请求。

【典型意义】本案二审在认定标准必要专利权人不存在过错、专利实施人存在明显过错的基础上,全额支持权利人的赔偿主张,明确标准必要专利侵权案件中确定损害赔偿责任时应当重点考虑当事人过错,凸显保护善意行为人的司法政策导向。


 最高人民法院の二審は、係争中の特許は標準必須特許であり、推薦性基準には係争中の特許技術案、特許番号及び権利者の連絡先が明確に開示されており、冀通社社は2016年に易徳利社に係争中の特許権侵害の疑いがあると書簡で訴えたことがあると判断した。易徳利社は係争中の特許の存在を知っていて、積極的に特許許可を求めていないだけでなく、再び許可を得ずに係争中の特許を実施していて、主観的に明らかな過ちがある。権利者の300万元の賠償請求を全額支持するよう判決した。

【典型的意義】本件二審は、認定基準に定められた要件とされている、特許権者に過失が存在せず、特許実施者に明らかな過失が存在することを基礎として、権利者の賠償主張を全額支持し、基準に必要な特許権侵害事件における損害賠償責任を確定する際に、当事者の過失を重点的に考慮し、善意の行為者を保護する司法政策の方向性を際立たせなければならない。


 なお、上記の判例は、特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)第24条第2項(下記ご参照)を反対解釈して原告の請求を認めたものと解される。

(条文引用)特許権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干問題に関する解釈(二)

最高人民法院关于审理侵犯专利权纠纷案件应用法律若干问题的解释(二)](法釈〔2020〕19号)

(最高人民法院2016年1月25日制定、2016年3月21日公布、2016年4月1日施行。最高人民法院2020年12月23日改正、2020年12月29日公布、2021年1月1日施行)


第24条(推奨標準に関連する必須特許)

 国、業界又は地方の推奨標準が関連する必須特許の情報を明示しており、権利侵害で訴えられた者が当該標準の実施に特許権者の許諾を要しないことを理由に当該特許権を侵害しないことを抗弁した場合は、人民法院は原則としてこれを支持しない。

2. 国、業界又は地方の推奨標準が関連する必須特許の情報を明示しており、特許権者と権利侵害で訴えられた者が当該特許の実施許諾条件を協議する際に、特許権者が故意にその標準制定において承諾した公平、合理、非差別(FRAND)の許諾義務に違反し、これにより特許実施許諾契約を締結できなくさせ、かつ権利侵害で訴えられた者に協議中に明確な過失がない場合には、権利者による標準実施行為の差止めを求める主張については、人民法院は原則としてこれを支持しない。

3. 本条第2項に定める許諾実施条件は、特許権者と権利侵害で訴えられた者の協議により確定しなければならない。十分な協議を経てもなお合意に達することができない場合は、人民法院に確定するよう請求することができる。人民法院は、上記の実施許諾条件を確定するにあたり、公平、合理、非差別(FRAND)の原則に基づき、特許の革新の程度及びその標準における作用、標準が属する技術分野、標準の性質、標準実施の範囲及び関連の許諾条件等の要素を総合的に考慮しなければならない。 法律、行政法規が標準における特許の実施について別途規定する場合は、その規定に従う。

=====小野寺弁護士からの引用ここまで(なお下線は二又加筆)=========

https://std.samr.gov.cn この標準に関する巨大なデータベース(全国標準信息公共服務平台)は競争当局SAMR(国家市場監督管理総局)が運営している。


なお、小野寺弁護士からは2022年の重要判例にSEP関連の事件でもう一件(817号事件)ご指摘もいただいた。この事案はSEPの差し止めに関するものである。最高人民法院知识产权法庭裁判要旨摘要https://ipc.court.gov.cn/zh-cn/news/view-2270.html

(最高人民法院3月30日発表)のなかに含まれた事案(817号事件)

同じく小野寺弁護士のメモから引用させていただく。

27.標準必須特許侵害事件における差し止め救済

【案号】(2022)最高法知民終817号

【裁判の要旨】標準必須特許に関する特許侵害紛争事件について『特許権侵害紛争事件の審理における法律の適用に関する最高人民法院の解釈(二)』第26条の規定を適用して侵害停止を判断する場合、国益、公共利益のほか、係争特許の性質、当事者の過失、係争中の特許権の権利状態と付随条件による侵害停止の必要性、および特許権者の利益保障方式などの要素。係争専利が性質上強制性基準の実施に避けられない必要な専利に属する場合、被訴訟侵害者に侵害停止の民事責任を負わせることはより慎重であるべきであり、当事者の主観的過失の程度、当事者間に利益の不均衡が存在するかどうか、損害賠償が専利権者の損失を十分に補うことができるかどうか、侵害停止が社会公共利益に影響するかどうかなどの要素を重点的に総合的に考慮しなければならない。

標準必須特許権侵害紛争事件では、事件の具体的な状況に応じて侵害停止判決に条件を付加することができる。例えば、標準必須特許実施者に侵害を停止させると同時に、技術案を修正するための合理的な猶予期間を与えることができ、または侵害を停止する義務を明確にして、実際に十分な損害賠償を支払うことができ、またはFRANDの原則に合致する許可期間を支払うことができる。

(中国語原文)

27.标准必要专利侵权案件中的禁令救济

  【案号】(2022)最高法知民终817号

  【裁判要旨】在标准必要专利侵权纠纷案件中适用《最高人民法院关于审理侵犯专利权纠纷案件应用法律若干问题的解释(二)》第二十六条之规定判断是否判令停止侵害时,除考虑国家利益、公共利益外,还可以考虑涉案专利的性质、当事人的过错、涉案专利权的权利状态和判令附条件停止侵害的必要性,以及专利权人的利益保障方式等因素。当涉案专利在性质上属于实施强制性标准所无法避开的必要专利时,判令被诉侵权人承担停止侵害的民事责任应当更为审慎,更应重点综合考虑当事人的主观过错程度、当事人之间是否存在利益失衡、损害赔偿是否能够充分弥补专利权人损失、停止侵害是否影响社会公共利益等因素。

  在标准必要专利侵权纠纷案件中,可以根据案件具体情况,对停止侵害判决附加条件。如,在判令标准必要专利实施者停止侵害的同时,可以给予其修改技术方案的合理宽限期,或者可以明确其停止侵害的义务至其实际支付充分的损害赔偿或符合FRAND原则的许可费时止。


上記同様の司法解釈が引用されておりますが、関連条文の和訳は以下のとおりです。

(条文引用)『特許権侵害紛争事件の審理における法律の適用に関する最高人民法院の解釈(二)』第26条(差止請求)

 被告が特許権に対する侵害を構成し、権利者がその者に権利侵害行為の差止めを命じる判決を下すよう請求した場合は、人民法院はこれを支持しなければならない。但し、国の利益、公共の利益の考量に基づき、人民法院は被告に対し訴えられた行為の差止めを命じる判決を下さずに、相応の合理的費用を支払うよう命じる判決を下すことができる。

(引用終わり)


Photo:Shutterstock

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