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<速報>独デュッセルドルフ地裁コネクテットカー訴訟でECJ付託(2):付託質問和訳 Connected car case Dusseldorf referral (JP translation)

(SEP研究会幹事 松永章吾弁護士提供)11月26日にデュッセルドルフ地方裁判所が、License to Allを拒絶するSEPホルダーの行為が支配的地位の濫用(TFEU 102条)にあたるか等の質問を欧州司法裁判所に付託する決定を行いました(4c O 17/19)。同日に裁判所が発表したプレスリリースの内容を和訳し、本件質問付託がなされるに至った背景と今後の問題点につきまして、松永弁護士からコメントいただきました。


本判決の質問付託についてのコメント 弁護士・弁理士 松永 章吾

 ドイツ連邦最高裁判所は、本年5月5日にSisvel v. Haier事件判決(KZR 36/17)を言渡し、ライセンスを受ける意思」を表明したSEP実施者によるホールドアウト行為(真実はライセンスを受ける意思のない実施者による交渉の引き延ばし行為)を許さないことを明言した上、ホールドアウト行為を認定するために、実施者にとって厳格な判断基準を示しました。

この判決を受けて、Nokia v. Daimler事件を審理していたマンハイム地裁は、Daimlerのホールドアウト行為を認定し、8月8日にLTE(4G)無線通信規格SEPに基づくDaimlerに対する差止認容判決 (2 O 34/19)を言渡したほか、Sharp v. Daimler事件を審理していたミュンヘン地裁も同様に9月10日にDaimlerに対する LTE(4G)無線通信規格SEPに基づく差止認容判決 (7 O 8818/19)を言渡しました。また、いずれの判決も、NokiaがDaimlerのサプライヤーへのライセンスを拒絶していたことがFRAND義務違反にあたるとのDaimlerの主張を退け、SEP権利者のLicense to all義務(SEP権利者はサプライチェーンにおける取引段階にかかわらず、ライセンスの取得を希望する全ての者に対してライセンスしなければならないという義務)を明確に否定していました。

 これに対し、本事件を審理していたデュッセルドルフ地裁のKlepsch判事は、9月に行われた本事件の最終口頭弁論において、本件SEPのFRAND義務を定める標準化団体ETSIのIPRポリシーにはLicense to Allの義務は規定されていないにもかかわらず、同ポリシーの解釈としてSEP権利者にはFRANDライセンスを求めるすべての実施者にライセンスすべき義務が認められると、上記の裁判例の流れに真っ向反対する意見を述べていました。同判事はさらに、携帯電話市場においては最終製品メーカーがライセンスポイントとなるのが商慣習であるとしても、自動車産業では部品メーカーがライセンスポイントとなるコンポーネント・レベルライセンスが伝統的な商慣習であること、また、完成車メーカーは数多くあるのに対してベースバンドチップの70%がたった5社によって製造されていることを理由に挙げて、最終製品メーカーをライセンスポイントとするFRANDライセンスの実務は必ずしも効率的ではなく、コンポーネント・レベルライセンスこそが合理的であるとの踏み込んだ意見も述べています。

このような経緯から、本判決は実体判断を保留し、「市場における支配的地位の濫用を禁止する欧州連合の機能に関する条約」(TFEU)第102条の解釈としてSEP権利者にLicense to Allの義務が認められるかについて欧州司法裁判所(EUCJ)に質問付託をすることが予想されていました。

 本判決によるEUCJへの質問付託は、フランス法を準拠法とするETSIのIPRポリシーの解釈としてLicense to All義務が認められるとしたKlepsch判事の意見とは必ずしも一致しないようにも思われます。また、本プレス・リリースが公表する質問内容にはKartellrechtliche Missbrauchsverbot(ドイツのカルテル法)が引用されている箇所があるなど、判決書における質問の書きぶりが不明な点も見受けられます。

 しかしながら、アメリカでもIEEEのIPRポリシーからはSEP権利者の義務であったLicense to Allの義務が削除されるなど、一度は議論が収束したかと思われた異業種間におけるSEPライセンスの一大論点についてEUCJの判断がなされる可能性が高まりました。

EUCJが付託された質問についての審理を開始する場合、その期間は2年程度となることが予想されます。この間、ドイツほかの欧州連合(EU)加盟国裁判所は、少なくとも被告がSEP権利者によるLicense to Allの義務違反をFRANDの抗弁として主張するSEPの侵害侵害訴訟においては差止認容判決の言渡しを差し控えるものと思われます。

 一方アメリカでは、本年9月10日にDOJ反トラスト局が、ライセンスを受ける意思のない実施者によるホールドアウトへの対抗策として、SEPによる差止を行うことを支持する声明を発しているほか、EUを離脱したイギリスの裁判所は、本年8月26日に言渡されたUnwired Planet v Huawei 事件最高裁判所判決([2018] EWCA Civ 2344)が示したようにSEPに基づく差止認容に積極的であるため、EU域外の裁判所による今後の判断が注目されます。仮にEUCJがTFEU102条の解釈としてSEP権利者のLicense to All義務を否定した場合、欧州では最終製品メーカーをライセンスポイントとし、最終製品をロイヤルティベースとするSEPライセンスのプラクティスが確定することになります。その場合、例えば3G/4GのSEPについて60%程度のポートフォリオを保有するとされるAvanciは、車載通信機(Telematic Control Unit)の製品価格が1台100ドル程度であるところ、クルマ1台あたり15ドルの固定ロイヤルティを発表しているほか、Avanciに加盟しない権利者を含む5G のSEP権利者はこれに上積みされるであろうロイヤルティをそれぞれ公開していることから、最終製品メーカーとサプライヤーとの間での特許保証のあり方についての議論が不可避となることと思われます。

 なお、上記は筆者の個人的な意見であり、所属事務所の意見や立場を代表するものではございません。


 
 
 

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