(中)中国のSEP方針の行方:業界団体知財ガイドライン(CVIA)の発表
- 二又 俊文
- 2021年11月18日
- 読了時間: 4分
更新日:2021年11月22日
Government guideline v. Industry group guideline in China
知財ガイドラインが業界団体である中国コンスーマーエレクトロニクス団体(CVIA)より発表された。業種としてはスマホ、AV機器、インフォテインメントなど広い分野の製品をカバーする中国の業界団体の民間団体である。位置付けとしては団体標準でこれが果たしてどこまでの権威性を有するかは読みづらいが、そのなかにSEPに関する多くの記載がみられた。今回政府機関の関与は全く見られず、業界団体が独自に動いたと見られる。JETRO香港からの情報や業界筋(複数)の情報をもとにまとめる。
短期SEP戦略と長期SEP戦略のせめぎ合い(業界vs政府方針)
中国は標準・知財強国をめざし世界のルールの追随者の立場からリーダーグループ入りを目指す中長期方針をすでに明確にしている(知財の十四五年計画、https://www.jetro.go.jp/ext_images/world/asia/cn/ip/gov/20211028_jp.pdf)。SEPの保有数ではすでに華為など世界の舞台でSEP強者としてリーダー群の一角に入り、さらに中国企業数社OPPO、小米などが続き、SEPの保有件数は年々着実に増加している。
ただ、短期的にみると中国は依然として製品の供給が中心で、そのためにはまだSEPロイヤリティが低いほうが望ましい。また、新たな産業分野として中国企業にチャンスが巡ってきたEVの分野ではライセンシーであることから低額ロイヤリティが望まれる。
このようななか、中国政策当局は大きな流れとしてはSEPの価値を高く評価し、それを支える中国企業を支援するが、それまでの前段階としてはSEPの国内企業同士の対立(華為などのSEP権利者と、たとえばEV企業群との利害対立)も解決しなければならない。EVについては華為がモジュール供給メーカーとして部品特許補償をつけて中国EV企業に供給する方針を打ち出し、中国国内での対立を収めようというアレンジが進行している。
一方海外のSEP保有者との関係では、依然、まだ知財バランスに劣る場合もあるため、国内ののSEP保有者・実施者と海外の強力なSEP保有者との紛争では当面は国内企業保護の施策をとりつづけるように見える。また裁判所もその国家方針に準ずる動きをとるとみられる。
業界団体の団体標準としての知財ガイドライン
そのような動きのなか、国家レベルの動きとは別に、業界団体が知財方針のガイドラインを、団体標準として発布する動きで出ている。まずコンスーマーエレクトロニクス分野の団体から発表された団体標準がある。きわめて実施者寄りの(SEP権利者に対する)厳しい基準が羅列されている。この団体標準についてJETRO香港が解説をおこなっているので参照いただきたい。
発表団体:中国电子视像行业协会,CHINA VIDEO INDUSTRY ASSOCIATION(CVIA),http://www.cvianet.org.cn/
発表ガイドライン:「消费电子领域知识产权许可机制指南 /Guidelines for Licensing Intellectual Property Involving Consumer Electronics) 」
※ただし上記のリンクは海外からのアクセスは現在切れている様子である。原文の中国語ドキュメントは文末にPDFで添付する。
同ガイドラインにSEPに関連して以下の記載がある。
①ライセンスの対象の特定に関して、特許および技術的貢献に関連する「最小販売可能単位(SSPPU)」
②ライセンサーの義務としてクレームチャートの提供:たとえば100件ファミリー以上をもつライセンサーは50%以上を提供しなければならない。
(筆者注)たとえば仮に5Gで1000件以上を持つのであれば500件のクレームチャートの準備が必要で、1件約100万円と数週間作成にかかるので権利主張するときには5億円の出費がいるということになる計算だろう
③ライセンスto ALL(LTA)の原則:部品メーカーへのライセンス義務。
(筆者注)欧米ではすでにLTAの原則は裁判所で却下され、通例はアクセスfor ALLの原則が裁判上採用されているがそれとは逆の義務。
今後の予想、車業界
今後関係業界ごとに類似の知財ガイドラインが出てくる可能性はある。たとえばEVを含む自動車業界では昨年11月12日「汽車標準専利工作組」が設置されSEPライセンスの議論が進められており、業界と工信部(日本の経産省と総務省通信部門が一緒になったような組織)がヒアリングを重ねている。近い将来「自動車標準必須特許ライセンスガイド(汽车标准必要专利许可指南)」を発行する予定であると言われている。
権利者である華為などと、実施者の車業界が政府の方針のもとどのように折り合いをつけるかは興味深い。また、外国企業との関係をどう整理するかも注目される。
Photo: Unsplash by Wu Yi
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