(米)SEPに関するDOJ-USPTO-NIST共同文書改訂ドラフト発表① DOJ announced revised SEP joint statement (draft)
- 二又 俊文
- 2021年12月9日
- 読了時間: 4分
更新日:2021年12月18日
12月に入り、世界各国で進められているSEPに関するさまざまな議論の整理文書が相次いで見えてきた。米国、欧州、中国、日本でそれぞれ動きがあるが順次報道する。
まず米国について大きな動きがあった。まず米国DOJ-USPTO-NIST共同文書改訂ドラフトの発表と、DOJより意見書募集が相次いで発表された。
本年7月9日に出されたBiden大統領が出した大統領令”Executive Order on Promoting Competition in the American Economy
の§5(d)「さらなるエージェンシーへの指示」のなかで、SEPについての記述があり、「市場支配力ならびに標準化過程における濫用を監視するためDOJ長官と商務長官は連携すること。さらに2019年12月19日に出されたDOJ-USPTO-NIST共同文書については改訂するかどうかを検討すべし」(注)と述べられていた。
この大統領令を受け、DOJ(司法省)よりこれに対する回答として改訂版ドラフトDOJ-USPTO-NIST共同文書が12月6日DOJより発表され、SEPにおいて何が誠実交渉であるかを述べている。文書名は”Policy Statement on Licensing Negotiations and Remedies for Standards-Essential Patents subject to voluntary F/RAND commitment”
今回の2021年文書ドラフトは2019年共同文書と比較するなら、やや実施者よりの記載が目立つが、一方で権利者と実施者とのバランスにもかなりの慎重な配慮を見せているのが特徴である。差止の可否については批判的な記載が続くが、ただ不誠実な実施者に対する厳しいスタンスも見せている。
以下細かくなるが、このドラフト文書から目立つ部分を引用する。
「この目的はSEP権利者とSEP実施者とがFRAND誓約に従いつつ技術イノベーションを促進し、消費者の選択を広げ、技術の広がりを確保するため、どのように効率的efficientなライセンスを広く実現するかである」(p.1, para2)。「SEP権利者がライセンス交渉で不当な加重を得ることは弊害がある」、「機会便乗的行為opportunistic behaviorはSEP権利者・実施者で起こり得る」(p.4,para1),「SEP権利者による機会便乗的行為は市場導入の遅れや価格上昇を招来し、消費者や中小企業に害をもたらす」(p. 4, para2)。
「同時に標準を実施する者が不誠実unwillingでFRANDライセンスを受け入れなかったり、交渉を遅延させることはSEP権利者の開発意欲を削ぎ、標準へのテクノロジーの貢献が細くなる」(p.4, para3).「FRAND誓約はstandards ecosystemに参加する全てにとりメリットがある」(p.4, para4)
「(SEP交渉にあたっては)SEP権利者はまず実施者に対し侵害されていると信ずるSEPについてどのような侵害かの情報を知らせ、実務的に必要に応じどのように侵害されているかを知らせるべきである(脚注:これは当該SEPにアクセスできなかった中小企業がライセンスが必要かを判断する上で大事である)」(p.5, para3)
「両者の交渉が誠実に行われたにもかかわらず決裂したときは、eBayドクトリン(2006), ITC Section 1337, Georgia-Pacificルールにより差止の可否めを判断する」(p.7, para2).ただし、「一般論として、SEP権利者に十分報いる金銭的賠償monetary remediesが望ましい」(p.8.para1).
「差し止めに関しては原則eBayが判断基準となるが、CAFC判決にあるようにSEPについてはFRANDライセンス誓約も考慮される以上、特許権者が広くライセンスを供与する意思であることを考慮すべきとしている」(p.8, para2)。「(著者注:差止の是非を検討するにあたり)裁判所はSSOへの参加を促す公益だけでなくSEPに過分の価値を付加しないように配慮すべきである」(p.9, para1)
もっとも「差止は実施者がFRANDライセンス締結にunwillingもしくはunableの場合には正当化される」(p.9,para2)。「FRAND誓約は故意侵害者の悪意の行動に対する懲罰的損害賠償の適用を妨げない」(p.10,para1)
「DOJの見解としては、裁判所や仲裁法廷が判断するにあたっては、交渉時の両当事者の行動をファクトベースで丁寧に検討した上で救済策を判断すべきと考える。」(p.10, para2)
「SEP権利者、実施者のいずれの機会便乗的な行為は標準の普及コストを増し、将来の標準の発展のための投資を阻害し、ひいてはすべての利用者に(悪)影響を与える。」(p.10,para.3)
(注)大統領令より引用 "To avoid the potential for anticompetitive extension of market power beyond the scope of granted patents, and to protect standard-setting processes from abuse, the Attorney General and the Secretary of Commerce are encouraged to consider whether to revise their position on the intersection of the intellectual property and antitrust laws, including by considering whether to revise the Policy Statement on Remedies for Standards-Essential Patents Subject to Voluntary F/RAND Commitments issued jointly by the Department of Justice, the United States Patent and Trademark Office, and the National Institute of Standards and Technology on December 19, 2019."

Photo; Shutterstock
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