既報のEUによるWTO協議プロセスの開始について、ご専門の山口大学大学院竹内誠也教授より解説をいただいたので掲載させていただく。
<引用>
EU による中国 SEP に係る TRIPS 協定遵守義務についての WTO 協議プロセスの開始
山口大学大学院 技術経営研究科 教授・弁理士 竹内誠也
2025 年 1 月 20 日に EU(欧州連合)は、中華人⺠共和国(中国)による知的財産権の保護と執行に悪影響を及ぼす措置および TRIPS 協定第 63 条に基づく義務の遵守*1 に関して、 WTO 協定および同附属書たる TRIPS 協定(「知的財産権の貿易関連の側面に関する協定」) に係る DSU(「紛争解決の規則及び手続に関する了解」)第 1 条および第 4 条等*2 に基づき、 同国との DSU 紛争解決上の協議(consultation)を要請したことが報じられている。
当該協議では、中国における OPPO 対 Nokia 事件での中級人⺠法院判決(2023 年 11 月) *3 による、同国国内での標準必須特許(SEP)に係る世界的な特許料率等ライセンス条件の 権利当事者からの同意の無い専断的な設定に関する判断等が対象とされ、具体的には TRIPS 協定第 2 条第 1 項により同協定の一部を構成するパリ条約第 4 条の 2、TRIPS 協定第 1 条第 1 項、第 28 条、第 44 条および第 63 条第 3 項等に関する中国の遵守義務につき協議が要請 されている。
EUの主張によれば本件協議の要請は、特許権が付与された各加盟国の領域内で SEP を実 施するための FRAND(「公正、合理的かつ非差別的」)ライセンス条件について自由に交渉し合意する権利が、中国による措置のため制限されている状況を解消するためのものとされる。
なお本件における DSU 上の協議プロセスは WTO 紛争解決手続きの第一段階であり、原則 として 60 日以内に協議事項の解決に至らないときには、EUは第二段階たるパネル紛争処 理手続に移行し得るものとなり、WTO に本件を裁定する紛争処理パネルを設置するよう要請 する可能性が予見される。引き続き本件紛争解決プロセスの推移を、慎重に観察していく 必要があるものと考えられる。
1 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_293.2 DSU 第 1 条および第 4 条、TRIPS 協定第 64 条 1 項および GATT1994(1994 年の関税と貿易に関する一般 協定)第 XXII 条 1 項.*3 中華人⺠共和国 重慶市第一中級人⺠法院 OPPO 対 Nokia ⺠事判決書 (2021) Yu 01 Mm Chu No.1232.
<引用終わり>
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