AvanciプールレートはFRANDか-- 英国最高裁が提起した課題 Tesla v IDC/Avanci in UK-SC
- Toshi Futamata
- 1 日前
- 読了時間: 5分
更新日:21 時間前
July 30, 2026 by Toshi Futamata
Is the Pool Rate FRAND? The Questions the UK Supreme Court Raised(Tesla v InterDigital & Avanci を読む)
Tesla, Inc v InterDigital Patent Holdings, Inc [2026]UKSC 27(2026年7月27日)|UKSC/2025/0058/A|Lord Hamblen・Lord Kitchin(全員一致)
2026年7月27日、英国最高裁判所はTesla対InterDigital事件で、下級審の判断を覆してTeslaの請求を復活させた。争点は、Teslaが英国で5G対応車両を投入するにあたり、Avanciの車載向け特許プラットフォーム(プール)が提示する1台あたり$32・交渉不可の定額ライセンス料がFRANDに適合しないと争えるか、そしてそれを英国裁判所で審理できるか、である。SEPをプール・プラットフォーム経由でライセンスする実務に一石を投じた。
冒頭断っておくと、本判決は$32がFRANDか否かを決める実体判断ではない。InterDigitalの管轄異議・送達却下申立てに対する上訴審であり、判断対象は、①ライセンス請求を本案で争わせてよいか(serious issue to be tried=審理すべき重大な争点か)と、②イングランド裁判所に管轄があるか、の二点に限られる。以下で「認めた」とあるのは、いずれも『立証できる現実的見込みがある』と認めたという趣旨であって、確定判断ではない。中間判断に近く、実体(FRANDレートの当否)は差し戻し先のHigh Courtに委ねられる。
1.権利者のFRAND義務はプール参加後も残る
SEP保有者にプールへの加入義務はない。だが、いったん加入しても、ETSIに対して負ったFRAND義務は消えない。Avanciという代理人を通じた共同ライセンスであっても、FRAND義務が外れると読める根拠は、ETSI IPRポリシーの文言にも趣旨にも存在しない(para 84)。むしろ、参加ライセンサーが世界の2G–5G SEPスタックの90%超を握って共同でライセンスを提示する本件のような状況では、FRAND規律を及ぼす正当性はいっそう強まる(para 85)。最高裁はUnwired Planet(2020)の枠組みのもと、この点に審理すべき重大な争点があると認めた(para 83)。
2.InterDigitalのFRAND義務は、プール全体のグローバルライセンスでのみ満たされ得る
ここでの問いは「InterDigitalのFRAND義務を満たすライセンスとは何か」である。Teslaは、InterDigitalのSEPだけを切り出した個別(二者間)ライセンスでは現実にFRAND条件でライセンスを受けられず、実務上FRANDと言えるのはAvanciプール全体(65社・約17万件)をFRANDレートでカバーするグローバル・プラットフォームライセンスのみだ、と主張した。プールは特定保有者分を切り出せない構造で、本来必要となり得た約7,500件もの二者間ライセンスを個別に交渉することは非現実的である。Avanci自身も、代替となる二者間ライセンス環境を「licensing debacle(惨状)」と表現していた(para 78)。何がFRANDかは商業的実態に照らして判断されるべきであり、こうした実態を踏まえ、最高裁はTeslaに、この主張を立証する現実的見込みがあると認めた(para 96)。

もっとも、この主張には競争法の観点から緊張がある。特許プールが許容される前提は独立ライセンスの余地(非排他性)であり、「プールレートこそ唯一のFRAND」という命題を突き詰めれば、個別権利者のレート裁量を空洞化させかねない。この緊張を最高裁も意識しており、FRAND義務がそもそも欧州委員会の関与のもと競争政策を反映して形成された点に触れている(para 86)。他方で最高裁は、Teslaの最も広い主張――あらゆるライセンスの申し出(二者間であれプラットフォーム経由であれ)がFRANDでなければならない――は退けた。FRAND義務が求めるのは「FRAND条件が利用可能であること」であって、別個の商業交渉が非FRANDの条件を生むこと自体を妨げるものではない(para 94)。さらに最高裁は、InterDigitalとの二者間FRANDライセンスを予備的請求として温存した(para 150)。つまりTeslaの主張は「法的にプールのみがFRAND」ではなく「実務上プールしか機能しない」という実態論であり、個別ライセンスの可否とレート裁量こそが本案の主戦場となる。
3.Avanciは料率を自ら設定した「不可欠な当事者(essential party)」
AvanciはETSIへのFRAND宣言をしておらず、自らSEPも保有しない。それでも、料率をSEP保有者から独立して自ら設定した(プールレートは調査・協議のうえ自らの判断で決め、ライセンサーには「take it or leave it」で提示された)以上、プラットフォーム条件のFRAND該当性を判断するうえで不可欠な当事者だとされた(para 142)。全ライセンサーの併合は現段階で不要であり、希望すれば個別に参加できる。
4.管轄――英国SEPの争いであり、英国が適切なフォーラム
英国SEPに付随するFRAND義務の執行を求める請求は、結果的に外国特許を含んでいても「英国特許権に関する請求」である、と性格づけられた。最高裁はVestel判決以降の論理に従って整理している(para 174)。これによりInterDigitalへの送達もAvanciへの域外送達も有効とされ、フォーラムショッピングの懸念も退けられた。米国デラウェア衡平裁判所は非米国特許のFRANDレートを決めないとして、英国が適切なフォーラムと結論づけている。
実務への示唆
実施者にとっては、プール・プラットフォーム料率がFRANDでないと考える場合に、英国で積極的に「道を切り開く(clear the way)」手段が確立したと言える。SEP保有者はプール経由でもFRAND審査を免れず、プラットフォーム運営者は自ら特許を持たずとも提示レートを英国手続で検証され得る。プール活用は商業的に効率的である一方、実務上それに依存すればプラットフォームのFRAND該当性が司法判断の対象となる、という法的帰結を伴う。
本判決後、Avanci Vehicle社のLaurie Fitzgerald社長は、「最高裁の判断には敬意をもって同意しかね、Teslaの主張には理由がないと引き続き考える」とコメントした。TeslaとInterDigitalは判決直後には態度を明らかにしていない。舞台は本案(High Court)へ移り、$32のレートがFRANDか否かが正面から争われる。
※本件は本案判決ではなく、「審理すべき重大な争点(serious issue to be tried)」の有無と管轄を判断した段階のものである。実体的なFRANDレートの是非は今後の本案に委ねられる。
参考記事
Young & Co LLP(Jonathan DeVile)「Summary of the Supreme Court decision in Tesla v InterDigital & Avanci」 http://dycip.com/uksc-2025-0058
IPWatchdog「UK Supreme Court Revives Tesla's Claims That Avanci 5G Vehicle Pool License Doesn't Satisfy FRAND Obligations」 https://ipwatchdog.com/2026/07/28/uk-supreme-court-revives-teslas-claims-that-avanci-5g-vehicle-pool-license-doesnt-satisfy-frand-obligations/
Tech Post(Gio Farley)「Tesla Wins UK Supreme Court Bid to Revive 5G Patent Lawsuit Against InterDigital」 https://www.itechpost.com/articles/236858/20260728/tesla-wins-uk-supreme-court-bid-revive-5g-patent-lawsuit-against-interdigital.htm
Lexology

コメント