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CNIPAのトップが変わる ― 陳福利とWTO紛争 Chen Fuli and China’s WTO Disputes

1 時間前
読了時間: 4分

September 15, 2026 by Toshi Futamata


中央組織部発表 2026年9月10日/国家知識産権局(CNIPA)


中国の知財行政のトップが交代しようとしている。


1.党側と行政側の二頭並立

2026年9月10日、中央組織部はCNIPAの指導幹部会議で、陳福利を党組書記とし、申長雨を同職から外す決定を公表した。発表されたのは党組書記のみで、まだ局長職には触れていない。

中国の官庁では党組書記と行政首長の兼任が通例であり、申長雨も2013年12月以来、13年近く両職を兼ねてきた。今回は一方だけが動いた。党側に陳福利、行政側に申長雨という二頭並立が、少なくとも形式上は続いている。局長は国務院の任免事項であり、公告が出るまで確定しない。兼任の蓋然性は高いが先例もある。


2.CNIPA局長 申長雨はどこへ行くのか

申長雨は2026年10月1日付でWIPO事務局次長に就く。任期は2032年9月30日まで。ただし席の位置は見ておく必要がある。

WIPOの事務局長はシンガポールのDaren Tangが2020年から占め、2026年4月に2期目が決まった。申長雨が就くのは事務局次長であり、しかも担当はBrands and Designs——商標・意匠・地理的表示である。特許・技術セクターは米国のLaura Peter(元USPTO副長官)が取る。前任の王彬穎も同じBrands and Designsであり、米中のセクター分担は動いていない。中国は現職の国家局長という格の高い人材を送りながら、本丸である特許の席は取れていない。なお仲裁調停センターはIP and Innovation Ecosystems部門に属し、留任のMarco Alemánの所管である。


3.WTO紛争の只中に居続けた人物

今回の人選でもっとも興味深いのは、陳福利が中国の対外WTO紛争の只中に居続けた人物であるという点である。彼は2002年に外経貿部(現商務部)条約法律司に入り、2009年8月から2014年10月までワシントンの中国大使館で知財を担当した。2014年11月に条約法律司副司長、2017年10月に司長に昇任している。

司長在任は2017年10月から2023年まで。この時期に何が起きたかを並べるとこうなる。米国通商代表部の301条調査の開始が2017年8月。米国による対中提訴DS542(技術移転措置)が2018年3月——もっともこれは中国が2019年に国内法令を改正した後、手続が繰り返し停止され、実体判断のないままパネルの権限が失効した。中国側からは301条関税への反訴も提起した。そしてEUが禁訴令(ASI)を争ったDS611は、2022年2月の協議要請、2023年1月のパネル設置とつづいた。

いずれも条約法律司の所管であり、陳福利はその責任者であった。彼は2023年9月に司長を離れ、全国人民代表大会常務委員会副秘書長に就いている。


4.WTO事件番号DS632という現在地

陳福利が離れた後もWTOでの審理は続いた。DS611(ASI事件)は2025年7月21日のDSU第25条仲裁判断で中国が敗れ、最高人民法院は同年9月23日付通知でASI政策を撤回したとされる。EUがこれを公表したのは2026年4月1日である。

そして現在、WTOにはグローバルFRANDレートを誰が決めるかを正面から問うDS632が係属している。EUが2026年2月にパネルを要請し、3月に設置された。日本も第三国参加している(本件は別稿で扱った)。陳福利はこの渦中でCNIPAの党組書記に就いた。自らが防戦を設計した論点が、いまも進行中の事件として残っているということである。

中国の知財行政に条約法務の人が座った。これが今回の人事の性格であろう。申長雨は工学者であり中国科学院院士であった。その13年の在任のあいだに、ASIという手法が生まれ、使われ、国際的に敗れ、撤回された。その後に来たのが技術の人ではなく条約の人であった点は、偶然ではなかろう。もっとも条約法務の担当者は、紛争を設計する立場であると同時に処理する立場でもある。対抗色の強化とのみ読むのは一面的である。

 

視野を広げれば、今回の二つの人事は一体のものとして読める。ジュネーブにCNIPA前局長を事務局次長として送り、北京の知財官庁には条約交渉の実務家を据えた。多国間の場と国内の実施官庁の双方に人を置いた形である。知財はもはや技術政策にとどまらず、対外関係の手段でもある。世界に乗り出そうとする習近平体制を、制度と人の両面から支える配置ということであろう。日本のSEP実務がCNIPAの人事を遠い話として見過ごせなくなるのも、この所以である。

中国知財は外洋に出た。


※ CNIPA局長人事は未発表であり、本稿の見通しは確定的なものではない。職歴の年月は中国側公開資料による。


参考資料

・陳福利任国家知識産権局党組書記, 中国新聞網, 2026年9月10日 https://www.chinanews.com.cn/gn/2026/09-10/10694147.shtml

・WIPO, WO/CC/86/1(事務局次長・事務局長補の任命), 2026年7月2日 https://www.wipo.int/edocs/mdocs/govbody/en/wo_cc_86/wo_cc_86_1.pdf

・WTO, DS611: China — Enforcement of Intellectual Property Rights https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds611_e.htm

・WTO, DS632: China — Worldwide Licensing Terms for Standard Essential Patents https://www.wto.org/english/tratop_e/dispu_e/cases_e/ds632_e.htm

・Mark A. Cohen, “Chen Fuli Appointed Party Secretary of CNIPA”, China IPR, 2026年9月11日 https://chinaipr.com/2026/09/11/chen-fuli-appointed-party-secretary-of-cnipa/

・Mark A. Cohen, “China’s ASI Strategic Retreat and WTO Compliance”, China IPR, 2026年4月3日 https://chinaipr.com/2026/04/03/chinas-asi-strategic-retreat-and-wto-compliance/

・拙稿「【速報】EUがSEP裁判権を巡りWTOで対中国パネル要請決定」SEP Research Group Japan https://ipr-study.wixsite.com/sep-research-japan/post/【速報】euがsep裁判権を巡りwtoで中国提訴-eu-requests-wto-panel-against-china-over-sep-jurisdiction

 
 
 

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