FRANDレートをどう決めるか③(ドイツとUPC) Who Sets FRAND Rate(Germany, UPC)
- Toshi Futamata
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更新日:1 日前
September 6, 2026 by Toshi Futamata
UPCマンハイム地方部・和解提案(2026年5月13日)UPC_CFI_850/2024/PMAC調停規則26条・27条/UPC控訴裁オーダー(2026年3月16日、UPC_CoA_904/2025・905/2025)
<全3回「FRANDレートをどう決めるか」連載 その最終回>
前回では、ロンドン、重慶、ミュンヘンがFRANDレートをどう決めようとしているのかを並べて見た。ただし、この三つを同じ列に置くことには注意がいる。自らレートを決定したのは英国と中国だけである。ロンドンは5年で3億9200万ドル、重慶は6年で7億3100万ドルを定めた。ミュンヘンI地裁は相当と考える額を述べたにとどまり、UPCマンハイム地方部は条件を提案したうえで判断そのものを差し控えた。
連載最終回ではこの違いを扱う。問いは「どの国の裁判所が決めるのか」ではない。数字はどこで生まれ、誰がそれに法的効力を与えるのか、である。
連載第2回「FRANDレートをどう決めるか②(この一年の判例と指針)」については読者から指摘をいただいた。UPCがFRAND決定に向かっているとするのはミスリードではないか、Zigann判事は慶應大学での講演でもその可能性を否定しており、Schön判事も料率は市場が決めるという立場を変えていない、という趣旨である。
この指摘は正しい。Zigann判事は2025年のIPBC Europeで、UPCが英国型のグローバル決定を行う可能性は低いと述べているし、Schön判事の2025年7月のFRANDガイダンスも、比較可能ライセンスを重視し、実際の契約から料率を導くべきだとする。FRANDは点ではなく幅であるという整理もそこにある。
1.論点は「誰が決めるか」ではなく「どこで決まるか」である
マンハイム地方部は連載第2回で触れなかった。ZTEとSamsungは双方がSEPを保有し、各国で相互に提訴している。UPCではTochtermann裁判長の同部に4件が係属する。
その同部が2026年5月13日付で和解提案を発した。2028年末までのライセンスに6億4000万ドル、2029年末までなら7億3000万ドル、という二案である。判決を追加することは選ばなかった。合意できない場合にはPMACによる調停を勧め、手続を中止したうえで、成立した和解を同部が確認して執行力を与えうる道筋を示した。しかもPMACが業務を開始するその日に席に着くことを勧めている。この提案に拘束力はない。
置かれた数字は、同部が算定したものではない。報道によれば、同部はミュンヘン、フランクフルト、重慶の各裁判所が示した額を出発点とするよう勧めている。6億4000万ドルは ミュンヘン地裁が相当とした額と一致し、7億3000万ドルは重慶の認定とほぼ重なる。ロンドンの3億9200万ドルだけが低い。
2.PMAC規則はFRANDを名指ししている
PMACの調停規則は、FRAND紛争において調停に付しうる事項を列挙し(26条)、非拘束のガイドラインを策定するとしている(27条)。専門家決定には必須性の評価と料率の決定が含まれ、成立した和解は当事者の共同申立てによりUPCの決定として確認される。なお第2回で私は、PMACで料率が決まりUPCが受け止める順序を想定していたが、実際は逆である。
3.ミュンヘン地裁が決めようとしているのは額ではなく幅である
ミュンヘンI地裁の2026年5月判決は連載第1回第2回で扱った。要点は、料率を決定する立場を採らないままZTEの提示は幅の中にあるとして差止めを認め、仮に自ら決めるとすればいくらになるかを初めて示した点にある。示された数字は主文ではなく、交渉のための基準点である。その幅も動く。判決が2024年から2028年について相当としたのは6億4000万ドル、幅の上限は7億9864万ドルである。ところが8月13日付のFRANDガイドラインは、新しいwilling性の審査基準を同じ事件に遡って当てはめれば、それぞれ5億5000万ドル、6億7880万ドルになるとする。結論は変わらないが、幅の位置は動く。

図 数字が生まれる場所と、それに効力を与える経路(2026年前半)
4.なお決着していない点
もっとも、UPCが料率決定の管轄をもつかという問題自体は閉じていない。Sun Patent Trust対Vivoで、控訴裁は2026年3月16日、許容性の判断を本案に委ねた措置を維持した(UPC_CoA_904/2025・905/2025)。判事の見解と制度としての可否は区別しておく必要がある。
5.まとめ ― ドイツとUPCで争われているのは何か
英国と中国は額を決めた。ドイツとUPCは決めていない。ではドイツとUPCで争われているのは何か。差止めを受けるか否かであり、料率はその判断材料にすぎない。ロンドンや重慶では「いくらが正しいか」を争い、ミュンヘンとマンハイムでは「幅の中にあるか」「willingか」を争う。防御の組み立てが違う。それでも数字は出る。判決によらずに数字が裁判所の間で共有され、収斂しつつある。外れているのはロンドンである。
これを合意による解決と呼べるかには疑問も残る。背後には差止めがあり、調停に応じない態度がwilling性の評価に跳ね返りうるからである。ただし、決定と合意には一つ決定的な違いがある。合意には出口があるが、決定には出口がない。当事者が作った条件は次の更新で作り直せる。判決で決められた額はそうではない。
裁判所の役割は、額を決めることから、当事者が自ら額を決められる条件を整えることへ移りつつある。ドイツとUPCが自らFRANDを決めないのは、権限がないからというより、その位置を選んでいるからだとみるのが自然であろう。
※ 本稿は2026年9月6日時点で公開されている資料による。和解提案に対する当事者の応答および控訴裁の管轄判断は確認できていない。裁判官の講演発言は報道により、原文を確認していない。
参考資料
・Cleary Gottlieb, Continued FRAND Divergence: UPC Issues First-Ever Settlement Proposal and Munich Court Grants Injunction in Samsung-ZTE Cellular SEP Dispute(2026年5月13日) https://www.clearygottlieb.com/news-and-insights/publication-listing/continued-frand-divergence
・Herbert Smith Freehills Kramer, Mediation and expert determination at PMAC – the UPC's Patent Mediation and Arbitration Centre(2026年5月) https://www.hsfkramer.com/notes/adr/2026-posts/mediation-and-expert-determination-at-pmac-the-ups-patent-mediation-and-arbitration-centre
・Herbert Smith Freehills Kramer, The UPC's PMAC to commence operation on 2 June 2026: A turning point for patent dispute resolution? https://www.hsfkramer.com/notes/ip/2026-05/the-upcs-pmac-to-commence-operation-on-2-june-2026-a-turning-point-for-patent-dispute-resolution
・Herbert Smith Freehills Kramer, A step closer to FRAND rate setting in the UPC(Sun Patent Trust 対 Vivo) https://www.hsfkramer.com/notes/ip/2026-03/a-step-closer-to-frand-rate-setting-in-the-upc
・CMS, The valuation of SEPs – The Munich Regional Court's view on how to determine a FRAND rate https://cms.law/en/deu/legal-updates/the-valuation-of-seps-the-munich-regional-court-s-view-on-how-to-determine-a-frand-rate
・JUVE Patent, "The UPC wants to bring ZTE and Samsung to the negotiating table"(2026年5月13日) https://www.juve-patent.com/people-and-business/the-upc-wants-to-bring-zte-and-samsung-to-the-negotiating-table/
・JUVE Patent, New FRAND guidelines: Munich Court aims to make proceedings more efficient(2026年8月13日付ガイドライン)https://www.juve-patent.com/legal-commentary/new-frand-guidelines-munich-court-aims-to-make-proceedings-more-efficient/
・JUVE Patent, Local division Mannheim flirts with setting FRAND rate(2026年3月) https://www.juve-patent.com/legal-commentary/local-division-mannheim-flirts-with-setting-frand-rate/
・JUVE Patent, UK judge Meade determines FRAND rate of $392m in Samsung vs ZTE(2026年5月) https://www.juve-patent.com/cases/uk-judge-meade-determines-frand-rate-of-392m-in-samsung-vs-zte/
・IAM, UPC unlikely to issue UK-style global FRAND determinations, says Munich Judge Zigann https://www.iam-media.com/article/upc-unlikely-issue-uk-style-global-frand-determinations-says-munich-judge-zigann
・Unified Patent Court, Patent Mediation and Arbitration Centre (PMAC) https://www.unifiedpatentcourt.org/en/court/patent-mediation-and-arbitration-centre
・拙稿「FRANDレートをどう決めるか②(この一年の判例と指針)」 https://ipr-study.wixsite.com/sep-research-japan/post/frandレートをどう決めるか-(この一年の判例と指針)how-frand-rate-fixed



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