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FRANDレートをどう決めるか①(ミュンヘン地裁)FRAND guidelines from Munich D.C.

更新日:5 時間前

ミュンヘン第一地方裁判所第7民事部「FRAND-Richtlinien」(2026年8月13日付、全67頁)

 

SEP訴訟で料率そのものが争点になったとき、裁判所は何を手がかりに判断するのか。ドイツの実務は長らく当事者の交渉態度に判断を集中させ、料率の中身に立ち入らずに済ませてきた。その前提が変わりつつある。


1.公表された文書

2026年8月13日、ミュンヘン第一地方裁判所第7民事部がFRAND指針(FRAND-Richtlinien 67頁)を公表した。Schön部長判事、Schweyer判事、Tözsér判事の合議体全員の合意による。本年前半に同部(注1)が言い渡した四つの判決の理由を要約したものであり、その四つとは、ASUS II(Nokia対ASUS、H.265/HEVC、7 O 4102/25、2026年1月22日)、ASUS I(Wilus対ASUS、WiFi 6、7 O 5007/25、同月29日)、RENAULT(Avago対Renault、7 O 7655/25)、及びZTE/Samsung(7 O 64/25、4月30日)である。

法規範ではなく同部の立場を示す文書にとどまるが、係属中の全FRAND事件に職権で送付される。同部は年40件から50件のSEP事件を扱い(Rn.7)、手続を過重にせず提訴から1年以内に判決できることを重視する(Rn.5)。ミュンヘン地裁全体では昨年332件を新受している。


(注1)技術的知財案件は、第7、第21、第44民事裁判部で分配審理されている


図1 FRAND審査枠組みが形になるまで(公開された判断の系列)


2.ミュンヘン地裁はなぜ書き下すことになったのか

従来のドイツの裁判実務は、双方の申出の内容に立ち入らず、当事者の行動に重点を置いてきた。原告の申出そのものの審査に至った例は、わずかな例外にとどまる(Rn.23)。指針はこの点を率直に振り返り、手続上の懈怠を理由とする判決は当事者にとって限られた意味しか持たなかったと述べる。ライセンス交渉を迅速に進めるべきことは自明であって、判決で確認するまでもないからである(Rn.25)。


そこで同部は、明白なホールドアウトの事案は簡易な手続で処理する一方、さらに料率の額が実際に争われている事案では、判決理由の中で具体的な申出に立ち入る方針を採った。理由を付した公開の判断は他の当事者間の同種事案に対しても指導的な機能を持つという自覚が、その背後にある(Rn.26)。指針の前文は、書き下した多くの論点を「自明の事柄であり、一度は書き留められなければならないもの」と述べ、将来の版は相当に短くなると予告する。Schön部長判事はJUVEに対し、指針を「明確化のための要約」と呼び、体系的で構造化された提示が明らかに必要であったと語っている。


3.二段階のライセンス意思審査

同部は、実施者のライセンス意思を二段階に分けて審査する。第一段階は外形的ライセンス意思(äußere Lizenzwilligkeit)であり、外から確認できる事情のみを形式的に審査する。実施者が争いのない部分――自らの最終申出額――を確定的に支払い、必要な場合に担保を提供したか。それだけを見る。担保が求められるのは、実施者の申出が権利者請求額の60%未満で、かつ差額が1,000万米ドルを超える場合に限られる(注2)。

(注2)最高裁BGH Einwand III(2026年1月27日KZR10/25)では実施者のカウンターオファーが拒否された場合、迅速に「適切な担保」が提供されるべきとするが、具体的な金額などは規定されていなかった。

 

第二段階は内容的ライセンス意思(innere Lizenzwilligkeit)であり、ここで初めて権利者の申出の中身に立ち入る。その申出がFRANDの幅に収まるかを、比較ライセンス契約と具体的な数値に即して実質的な審理に入る。第一段階がクリアされなければ、第2段階には進まない。

図2 二段階のライセンス意思審査


4.比較ライセンス契約方式が優先する

この第二段階の審査は比較ライセンス契約の分析を主軸とし、トップダウン方式は従に置かれる。比較対象は締結から5年以内のものに限る。そこから中央値を求め、上下50%をFRANDレンジとする。すべての要素が同一の場合には、なお15%の引上げが許される。裁判所は単一の料率を確定するのではなく幅を画定するにとどめている

契約の出し方にも特徴がある。どの契約を提出するかは特許権者が選べるものの、その選択は実際のライセンス実務を適切に代表していなければならず、提出しない契約についても存在と理由を説明する責務を負う。同部は、権利者の意思に反して契約の提出を強制しない。この階層は英国のUnwired Planet v Huaweiと似るが、英国裁判所がグローバル・ライセンスの条件そのものを定めるのに対し、ミュンヘンは侵害訴訟の枠内で権利者の申出が幅に収まるかを問うにとどまる。


なお同部は裁判所選任鑑定人を用いない。料率が相当かどうかは法律問題であって鑑定になじまない、というのがその理由である。もっとも、一括払契約のunpack、すなわち総額を契約締結時に見込まれた台数へallocationして1台当たりの料率を求める作業は、経済分析そのものである。裁判所が鑑定人を選ばない以上、これを持ち込むのは当事者の側になる。OxForaはこの帰結を「エコノミストは早く、FRAND期日のはるか前に確保せよ」と言い表している。


5.トップダウン方式 ― 数字を先に置く

比較契約が存在しない場合にはトップダウン方式により料率そのものを定めることもある。

ZTE v Samsungがその事案であった。同部は携帯電話の標準化単価を170米ドル、移動通信規格全体への配分を8%として、端末の生涯利用につきARBを13.60米ドルとした。標準における1%の持分は0.136米ドルに相当する。指針はこの金額を、ミュンヘンのスターバックスのアイスマッチャラテ1杯(6.90ユーロ)と並べてみせる。

注目すべきは、同部がこの計算の複数の箇所で技術利用者(実施者)に有利な仮定を置いたと自ら述べている点である(Rn.47、Rn.158)。加えて指針は、13.60米ドルが純粋に擬制的な数値であって、実際に支払われている額はこれより相当低いとみられるとも明言する(Rn.129)。数字を確定するためではなく、議論の土俵を作るために数字を置いたとみるのが自然であろう。

 

第7部はトップダウン方式により、Avanciの5Gロイヤリティ$32を検証した。そして$32はFRANDの範囲内にあると結論づけた。



6 .中国企業ポートフォリオへの15%割引

指針の中で最も衝撃が大きいのは、この部分であろう。同部は、中華人民共和国の企業が人為的に膨張したポートフォリオを保有しているとの反証可能な推定を認め、中国企業のポートフォリオには15%の減額を行うべきであるとする(Rn.154)。理由は、国家主導の経済体制の下で特許出願が財政的に助成され、その結果として特に多数の特許が出願されたこと、当該制度は既に失効しているとみられるものの現存する権利の状態に影響を及ぼし続け、そうした措置を講じない国の市場参加者を不利にしていることに求められる。他社ポートフォリオの評価を引き上げる形での調整は行わない。


影響は具体的である。指針は、ZTE/Samsungを再度判断するとすれば被告の主張の有無にかかわらず15%の減額を行い、2024年から2028年までの一括払を6億4,000万米ドルではなく5億5,000万米ドルに設定したであろうと述べる(Rn.196)。もっとも、ポートフォリオの規模が出願行動に起因することの立証は本来、技術利用者側の責務であり、これまでいかなる事案でもその立証はなされていないとも指摘されている(Rn.153)。立証責任の所在を語りながら、立証を待たずに国籍を基準とする一律の推定を置いた点は、国際的な議論を招くであろう。


7.ストリーミング分野 ― 手がかりのない領域

指針が最も踏み込んだのはストリーミングである。比較契約もなく、確立したライセンス実務もなく、トップダウンの中核データであるARBの経験値もない。同部はそれでも公開情報から試算を示した。まず、再生機器が既にライセンスを受けていることを理由に配信事業者を免責することはできないとする。ストリーミング機能の提供とストリーミングサービスの提供は異なる利用態様であり、消尽は及ばない(Rn.210)。


次に、Netflix及びDisney+の年額(付加価値税抜き)からコンテンツ価値として3分の2を控除し、残額に16%を乗じる。標準プランでNetflixが月額0.63ユーロ、Disney+が0.49ユーロ。プレミアムプランは標準との差額に25%を乗じた額を加算し、それぞれ1.05ユーロ、0.84ユーロとなる。同部自身がこれを拘束力のないものと断っている(Rn.230)が、手がかりが何もない領域で自ら計算を示したことの意味は小さくない。


8.まとめ ― この足跡が示すもの

これだけの整理を可能にしたものは何か。第一に件数である。年40件から50件のSEP事件を1年以内に処理する部でなければ、これほどの論点を横断的にまとめることはできない。BGHはFRAND-Einwand III(KZR 10/25)においても審査の枠組みを当事者の行動に置いたままであり、権利者の申出をどう審査するかについて具体的な判断を示していない。その空白を埋める作業は、事実上、事件数を抱える下級審に委ねられている。

第二に、算定の当否を自ら引き受ける姿勢である。鑑定人に委ねない以上、結論の責任は合議体に戻ってくる。そのうえで指針は、示した基準が近似にすぎず、より個別的な評価を要する特別な事案が常にありうることを認めている(Rn.15)。将来の版は短くなるという前文の予告とあわせて読めば、これは完成した体系としてではなく、書き換えられることを前提とした暫定的な整理として提示されている。


もっとも、見える化には代償が伴う。中国企業ポートフォリオの15%割引はその最たるものであり、欧州委員会がVoiceAge対HMDで提出したアミカスキュリエ意見を消費者利益に偏したものとして批判した部分も同様である。数字を書き下せば、その数字自体が批判の的になる。それは可視化を選んだことの必然的な帰結であって、書かずに済ませた場合に残ったであろう不透明さと比較して評価されるべきものではなかろうか。

FRAND料率の算定は本来、外からは見えない作業である。秘密保持契約に覆われた比較契約、黒塗りされた判決理由、和解によって公表を免れる論点。それを見えるようにするには、多数の事案に正面から向き合い、批判を引き受ける用意のある判事が必要であった。


参考 ― ZTE/Samsungの三法域

同一の前提契約について英・独・中の三法域が異なる解釈に至り、算定額が大きく分かれた経緯については別稿で扱った(「良い特許」だけでは決まらない ― Samsung v. ZTEが日本のSEP権利者に問うもの)ので、ここでは繰り返さない。


※ 指針は法規範ではなく、第7民事部の立場を示す文書である。ストリーミングに関する試算は同部自身が拘束力を否定している。Schön部長判事の発言は専門紙の報道に依拠しており、ドイツ語の原発言は確認していない。


参考資料

・Landgericht München I, 7. Zivilkammer, FRAND-Richtlinien, Stand 13. August 2026(全67頁)

・New FRAND guidelines: Munich Court aims to make proceedings more efficient(JUVE Patent) https://www.juve-patent.com/legal-commentary/new-frand-guidelines-munich-court-aims-to-make-proceedings-more-efficient/

・Munich Courts Go Economics(OxFora, 2026年8月24日) https://www.oxfora.org/2026/08/24/munich-courts-go-economics/

・German judges lay out approach to video streaming SEP licensing disputes(Adam Houldsworth, IAM, 2026年8月20日)

・Munich I Regional Court publishes new FRAND guidelines for SEP cases(Meissner Bolte) https://www.meissnerbolte.com/en/news/munich-i-regional-court-publishes-new-frand-guidelines-for-sep-cases/

・WeChat_IPR Dairy周鵬_海通国際知識産権研究所(2026年8月28日)从许可意愿到许可费率:慕尼黑第七民事庭的67页FRAND指南

 
 
 

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