<寄稿>サムスン-ZTE事件、韓国のSEP実務者は何を見ているか <Guest Contribution> Samsung v. ZTE: A View from Korea's SEP Practice
- Toshi Futamata
- 2 日前
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―特に訴訟地選択に関して―
Dr. Sehwan Choi ,
Ph.D. Patent Attorney, FirstLaw P.C.
1. なぜこの論争を韓国から改めて見るのか
サムスンとZTEの特許紛争事件において、複数の裁判所で相次いで判決が下されるにつれ、韓国のIP/SEP実務者の間では、実は判決の結論そのものよりも、その後に残された問いのほうが長く残っている。ZTEはどのようにしてこれほど巧みに訴訟を進めることができたのか(あるいは、サムスンはなぜ事実上完敗しているのか)、裁判地としてソウルはなぜそもそも選択肢になかったのか、そしてこの闘いにおいて韓国企業が今後も振り回される立場から脱するには何が必要か。日本の実務者も同様の疑問に直面しているのではないかと考え、本稿を執筆する。本稿は特に裁判地選択に焦点を当てて事件を見ていく。
2. 事実関係―紛争の経緯
サムスン-ZTE間の特許クロスライセンス契約は2023年末に満了し、再交渉が決裂したことを受け、サムスンは2024年12月に英国ロンドンで、ZTEはその4日後に中国重慶で、それぞれ提訴した。その後、戦線はUPC・ドイツ・ブラジル・米国へと拡大した。2026年5月1日、英国裁判所はサムスンに約3億9千万ドルの支払いを命じ、同日、重慶の裁判所はZTEが求めた7億3千万ドルの全額支払いを命じた。ドイツ・ブラジルの裁判所もZTE寄りの判断を下した。
本事件の詳細については、以下に記載するSEP研究会の記事を参照されたい。
3. 訴訟地選択をめぐる議論―パク教授の論考を中心に―
最近、韓国でパク・ビョンウク氏(東国大学校 兼任教授)がIT業界の専門誌に興味深い記事を寄稿した。この記事は、判決から得られる教訓、企業への提言、政府への提言という三つの層に整理されている。数ある提言の中でも、特に訴訟地選択に関する内容が印象的である。
パク教授は第一に、ZTEが国ごとに異なる目的で訴訟を「設計」した点に注目している。ドイツ・ブラジルでは差止め(販売禁止)、英国では暫定ライセンスの阻止、重慶では自国基準の確立、このように目的を切り分け、極めて効率的に運用することで中国企業の存在感が高まっているという診断であり、韓国企業はこれを真剣に分析すべきだというものである。
第二に、SEPは一般特許とは異なり、韓国の裁判所を国際紛争の選択肢にすることができると指摘している。韓国の裁判所がSEPに関する専門性を備え、特許権者に有利な判決が増え、判決に至るスピードが速まれば、特許権者にとって魅力的な法廷になり得るというものである。
筆者(CHOI)は、第1の「(サムスンの)先制提訴は有利にならない」という結論には同意しがたい。サムスンが先に英国で提訴したにもかかわらず、それが重慶での提訴もドイツ・ブラジルでの反撃も阻止できなかったという事実関係自体はそのとおりである。しかし、その先制提訴が他国での提訴を阻止できなかったからといって、それを失敗と断定することはできないと考える。なぜならサムスンが英国を先に選んだ目的は、他の法廷よりも判例が蓄積され、手続の予測可能性が高い場所で、有利な判断基準を先に作っておくことにあるとみたからではないか。複数の法廷で同時に争わざるを得ないのがSEP紛争の構造的な現実である以上、先制提訴の価値は「他の訴訟を阻止できるか」だけでなく、「有利な基準を先に確保できるか」も併せて評価すべきだと筆者は考える。
さらに、第2の指摘には全面的に同意しており、十分にあり得る方向だと考える。これは、SEP紛争が特許権の属地主義と、単一のグローバルライセンスという、互いに衝突する原理の上に成り立っているためである。特許権は本来、国ごとに効力を持つ属地的権利であるが、SEP実務においては、国別にライセンスを結ぶのではなく、世界中の特許を一括してカバーする一つの契約を結ぶのが慣行となっている。そのグローバルライセンスの料率を決める裁判管轄をめぐって、各国の裁判所が互いに主導権を握ろうとしているのである。英国と中国が同じ日に正反対の金額を打ち出したのは、この衝突が表面化した結果であり、鍵となるのは「どの裁判所がより公正か」ではなく、「どの裁判所の判断がグローバルライセンスの基準として受け入れられる権威を備えているか」、あるいは「どの裁判所が訴訟当事者にとって使いやすいか」だと考えるからである。
4. 韓国国内の受け止め方と示唆
サムスン-ZTE二重判決について、韓国メディアから出た分析は、この記事が唯一のものである。国内報道の大半は「サムスン敗訴、賠償額いくら」という結果だけを伝えるにとどまり、英国と中国がなぜ正反対の結論に至ったのか、その論理の違いに踏み込んだ記事はほとんど見当たらなかった。
但し、「ソウルは選択肢になかった」という事実は、実際に韓国のIP専門家の間で痛みを伴って語られてきた部分である。韓国のソウル中央地方法院や特許法院のSEP審理能力そのものを疑う実務者は多くない。問題はスピードと予測可能性である。ドイツの裁判所が1年以内に結論を出し、判断基準をあらかじめ公開していることと比べると、韓国の裁判所が国際SEP紛争の主戦場として選ばれるまでには、まだ距離がある。
今回の事件でサムスンが韓国で訴訟を提起しなかったのは、ZTEの韓国での売上が事実上ゼロであることが考慮されたためと思われるが、残念ながらこうした傾向は今回の事件に限られたものではないというのが、これまでの現実である。
韓国国内の多くの専門家は、韓国の裁判所が訴訟当事者双方の利便性に配慮した政策を取り、国際SEP紛争の裁判地として選ばれるようにすべきだと述べている。これは、企業がその都度外国で争うよりも、国家的にも個々の韓国企業にとっても望ましいと考える。しかし、韓国大企業の間には、これを懐疑的に見る向きもある。韓国の法廷が新たな選択肢になったとしても、結局は戦う場所が一つ増えるだけだという声も聞かれる。この温度差は、今後韓国の裁判所の実績が積み重なるまでは、容易には縮まらないだろう。
5. 今後の見通し
韓国特許法院は2025年の新院長就任とともに、特許訴訟の審理手続と期間を標準化することを政策方針として掲げており、特にSEP紛争の審理手続を整備しようとする動きを見せている。ただし、その進展のスピードは遅く、現段階ではまだ調査研究にとどまっているように見える。日本が東京地方裁判所においてSEP調停手続に関してリードしていることは、大変参考になるだろう。
こうした状況の中、個々の企業の訴訟戦略が精緻化する速度は、政府・裁判所による制度整備よりもはやいのではないか。韓国企業が今すぐ取り組むべきことの一つは、管轄戦略の準備であろう。平時から、どの法廷で何を狙って訴訟を起こすのかをあらかじめ描いておく必要がある。これは、平穏なときにこそ用意しておくべき事前設計の領域に近い。
参考資料
パク・ビョンウク(東国大学校 兼任教授)「[寄稿] 同じ『サムスン-ZTE』特許訴訟...中国が英国を無視した日」ZDNet Korea、2026年7月8日
SEP研究会の『サムスン-ZTE』事件に関する記事




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