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英国地裁 ZTE 対 Samsungで $392Mの支払をSamsungに命じる Samsung v ZTE Judgment in UK

更新日:2 日前


May 6, 2026 by Toshi Futamata


2026年5月1日、英国高等法院(Meade J)はSamsung v. ZTEのFRAND判決を言い渡した([2026] EWHC 999 (Pat))。

本事案は、事業会社同士のクロスライセンス交渉において、グローバルSEP FRANDレートを英国裁判所が決めた初めてのケースである。判決ではZTEとAppleの2020年ライセンス契約がbest comparableライセンスとみなされ、最終的にSamsungがZTEに対して$392Mの一括払い(lump sum)を行うように命じた。ドイツ(ミュンヘン地裁や)中国(重慶第一中級人民法院)でも並行して訴訟が行われており、ドイツではZTEがSamsungに対して差止命令を勝ち取っている。


以下、事実編コメント編に分けて解説する。


判決原文



【事実編】判決の内容

1. 事案の背景

2021年に締結されたZTE・Samsung間のクロスライセンス契約が期限切れとなり、更新交渉が決裂。2024年12月19日にSamsungが英国高等法院に提訴し(グローバルFRAND決定を求める)、4日後の12月23日にZTEが重慶中級人民法院に提訴した。その後、独・米・ブラジル・UPC等に訴訟が拡大し、両当事者合計で少なくとも17件の法的手続が世界各地で進行する多法域紛争に発展している。

2. 英国判決の骨子

Meade Jは、SamsungがZTEに支払うグローバルFRAND一括払い額を3億9200万米ドル(Samsung支払側)と確定した。ZTEの請求額は7億3100万ドル、Samsungの上限主張は2億ドルであり、判決額はその中間に位置している。

3. 比較対象comparableライセンスの選定

裁判所はZTE自身の過去ライセンス2つを出発点("Big Two")とした。ZTE-Apple, ZTE-Samsung

  • ZTE-Apple 2020ライセンス:5Gを明示的にカバーし、調整が比較的容易なことから主要なcomparableライセンスとして採用。

  • 2021年PLA(ZTE-Samsung):5G対価の不十分な手当てや解釈問題から補助的な位置付けに留まった。

  • ZTEが主張したEricsson・Nokia・InterDigitalとのSamsung側ライセンス("ENI")については、ポートフォリオの性質・地理的構成の差異および差止リスクプレミアムを理由に排除された。Samsung側が提出した一部の日本・中国ベンダーライセンスについても、料率のばらつきが大きすぎるとしてcomparableとしての信頼性が否定されている。

4.ロイヤリティの算出方法

裁判所はZTEが過去ライセンス交渉において著しく不利な立場にあったと認定した——米国制裁の影響、即時キャッシュフロー確保の必要性、アウトバウンドライセンスの経験不足、訴訟能力の弱さ等。そしてこれらを勘案して最終額を算出した。

なお、マルチモード加重配分については、重慶法院がNokia v. Oppo事件で採用したアプローチ(4G:80:10:10、5G:50:40:5:5)が参照されており、英国判決が中国の判例手法を参照した点は注目に値する。

ライセンス範囲scopeについてはSamsungの主張が支持され、セルラーSEPに限らず非セルラーSEPおよび非SEP特許を含む2021年ライセンス契約(PLA)の範囲を踏襲すべきと判示された。

5. 英中手続の現状

現時点での手続状況を整理する。

手続


状況

英国 EWHC(Meade J)本案判決

Samsungがロイヤリティ決定を英国に求めた

2026年5月1日判決確定($392M、Samsung支払)

英国 EWCA(bad faith問題)

2025年6月25日に一審Mellor JがSamsungにInterim Licenceを認めていたが、控訴審はこれを否定した

2025年10月31日:ZTEのフォーラム選好はbad faithに当たらないとして、ZTEのbad faith認定を全員一致で破棄

重慶中級人民法院

ZTEがロイヤリティ決定を中国に求めた

審理終了。2026年5月判決。判決未公開

ドイツミュンヘンI地裁第7民事部

SamsungのFRAND異議申立て却下

2026年4月30日 Samsungに差止命令

重慶法院は2025年9〜10月に実体審理を終え、5月はじめに判決が出されたとされているが、判決は本稿執筆時点(2026年5月6日)でまだ公開されていない。英国Meade J判決においても、重慶手続への言及は「英国審理前にFRAND審理が行われ、判決は係属中」という一文のみである。

また、ZTEは英国判決への合意を約束していない。Samsungが英国判決に基づくライセンスへの合意を表明しているのに対し、ZTEがそうしていないのは、重慶手続を実質的に温存しているためとされる。


英国事案 代理人

• Samsung側(原告): 法律事務所 Kirkland & Ellis、法廷弁護士 Daniel Alexander KC 等

• ZTE側(被告): 法律事務所 Powell Gilbert、法廷弁護士Sarah Abram KC 等


【コメント編】本訴訟をどうみるか

1)SamsungとZTEのパワーバランスの変化

本判決が指摘しているように、2021年のSamsungとZTEとのライセンス契約は圧倒的にSamsungペースで進んだと見られる。しかし、この5年の間にZTEは特に5Gでのポートフォリオの充実を加速させたのだろうが、一方のSamsungはその間社内でのさまざまな内紛(ストライキ)や、知財部門からの情報流出などの事件のなかで交渉力を弱体化したように見える。


2)今後のシナリオ

現時点で考えられるシナリオは4つあろう。

シナリオ1(実務的決着):英国判決の$392Mをベースに両者が交渉し、Samsungが一定の上積みを行う形で実務的に決着する。最も現実的なシナリオ。

シナリオ2(重慶判決主導の再交渉):重慶判決が公表され、その内容(特に金額)次第でZTEがこれを根拠に再交渉を試みる。ただし英国での執行力の問題が生じ、複雑化する可能性がある。

シナリオ3(管轄衝突の深刻化):英中両判決が異なる金額・条件で確定し、並存する。グローバルFRAND判決をめぐる管轄競争の構造的問題が一層顕在化する。

シナリオ4(英国控訴):$392Mを不服としてZTEまたはSamsungが英国控訴院に控訴する。ただし、Samsungは英国判決への合意を約束しており、自らが控訴することには論理的な矛盾がある。


3)その他

中国(重慶中院)とドイツの判決の報道において、一部業界誌(IPFRAYなど)は「先走った」記事を連載しているが、慎重な事実認定が必要と思われる。


参考資料

1)UK判決原文


2)High Court Press Summary


3)Bristows速報(5月1日付)


4)SaraBrick Court Chambers, Ms. Sarah Abram KC(5月5日付) ZTE代理人


5)JUVE(5月4日付)


6)Sisvel Insights(5月4日付)


【参考】韓国メディアの反応

当事者の一方・Samsungの本拠国である韓国では、本判決をどのように受け止めたか。


韓国内報道の実質的な一次ソースは**연합뉴스(聯合ニュース)のロンドン特派員電である。「Samsung、英国法院より5,760億ウォン(約$392M)のFRANDライセンス精算金支払いを命じられる」と事実を淡々と報じ、KBS(公共放送)を含む主要メディアがこれを転載した。FRANDの法的意義、comparable選定のロジック、英中並行手続の構造的問題といった本判決の核心には踏み込まれておらず、経済ニュースとして処理された形である。なお、聯合ニュースはSamsung・ZTE双方がコメント要請に応答していない事実を別途報じた。両社が戦略的沈黙を保っているのは、控訴権の留保に加え、重慶法院判決が未公開である現段階では英中判断の乖離幅が確定していないためと考えられる。


ビジネス誌の**한경비즈니스(韓国経済ビジネス)**は「중국에 패소 삼성전자(中国に敗訴したSamsung)」という見出しを使用した。「中国への敗訴」という表現は法的に正確ではないが、一般読者向けに訴求した結果のフレーミングと見られる。


知財専門メディアIPDailyは、「英国法院$392M vs. 中国法院$700M超」という対比を前面に出し、英中管轄権競争の構図を正面から取り上げている。専門読者(企業知財・弁理士・弁護士層)向けとして、本事案の本質に最も近い問題設定といえる。


韓国メディア記事リンクについては、Sehwan CHOI弁理士(FirstLaw P.C.)の協力をいただいた。

韓国記事リンク:

 
 
 

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