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中国CNIPA「SEP出願手引」が示すもの  What CNIPA's SEP  Application Guidelines Reveal


2026年3月、中国国家知識産権局(CNIPA)は『SEP特許出願手引』を公布した。標準必須特許(SEP)の出願に関する中国初の包括的指針であり、通信分野(5G/6G/Wi-Fi 等)を主な対象としつつ、SEP化を見据えた特許戦略の在り方を体系的に整理した内容となっている。本手引は国家方針「知的財産権強国建設綱要(2021‐2035年)」で重視される標準化戦略の具体的推進ツールの一つと位置付けられよう。

Sources(中文):

 

手引で示されたこと

本手引はまず、SEPの本質を「請求項の構成要件と標準規格記載との対応関係」と述べ、クレームチャート(CC表)を主要分析ツールとして位置付けている。そのうえで、標準化プロセス(提案 → 起草・審議 → 公布)の各段階に応じた特許行動を明示し、出願段階・審査段階の双方で標準と整合的な権利化を進めるべきことを示している。

 

実務上の中核は、三つの制度の戦略的併用である。第一に優先権制度(12ヶ月)による出願日の早期確保、第二に新規性の猶予期間(6ヶ月)――2024年施行の実施細則改正により、認可された国際標準化機関の会合における開示も対象に組み込まれた――、そして第三に遅延審査制度(最長3年)の活用がある。実体審査請求自体の遅延と組み合わせることで、出願人は最長6年間の審査待機期間を確保することができ、標準凍結のタイミングに審査スケジュールを整合させやすくなる。

 

加えて、明細書・請求項の作成については、標準用語の積極的使用、請求項の階層的設計、実施例の拡充、並列技術方案の網羅、修正範囲超過の防止など、具体的な留意点が示されている。

 

公布の意義

第一の意義は、SEP競争の主戦場が「ライセンス交渉段階」から「特許出願段階」へと前倒しされている現状を、中国当局が公式に追認した点にある。出願時点でのクレーム設計と標準用語との整合の巧拙が、後のSSOにおけるSEP宣言およびライセンス交渉における優劣を決定づける時代に入ったことを意味する。

第二の意義は、これまで一部の通信大手や熟練代理人の暗黙知に依存していた中国SEP実務を、当局CNIPA自らが公開・標準化したことである。既存制度に新たな実体規定を加えるものではないものの、運用指針が公式化されたことは、後発企業や非通信分野への波及にとって重要な参照点となる。

第三の意義は、標準化部門と知財部門の連携が経営課題として浮上した点である。提案前出願の徹底、遅延審査の原則適用、クレーム設計テンプレートの整備など、組織横断的な対応が求められる段階に至ったことといえる。

 

翻って、日本の状況は

ここで、我が国の状況に目を転じる必要がある。中国がSEP出願実務を公的指針として体系化・公開化した一方で、日本においては、SEP出願に特化した同種の包括的指針はいまだ整備されていない。SEP実務は依然として一部の大手企業・熟練実務家の経験知に大きく委ねられているのが実情である。

 

通信分野では中国・韓国勢の出願件数およびSEP宣言件数の伸長が顕著であり、標準規格策定会合における提案数においても日本の存在感は相対的に低下傾向にあると指摘されて久しい。本指針の公布は、こうした趨勢の中で「中国は出願段階から国家として戦う構え」を明確に示したものと読むことができ看過し得ない。優先権・新規性猶予・遅延審査といった制度ツールの戦略的活用法を、出願人サイドのみならず制度運用サイドからも、改めて整理・整備していくべき局面に来ているのではないだろうか。

 

結び

中国市場および中国発標準を軽視することは危険である。本手引を出願戦略の見直しに向けた契機としてとらまえることは重要であろう。同時に、本指針は「次の標準化サイクルでは出願段階の巧拙が勝負を決する」という明確なメッセージと読み取ることが大事であり、日本企業・日本の制度運用者にとっても、対応の遅れがそのまま競争力の劣後につながりかねない局面といえる。

通信分野以外(自動車V2X、IoT、AI、デジタルヘルス等)への波及可能性も視野に入れ、議論を深める好機でもあろう。

 

なお、各条項の詳細な逐条解説、三大戦略の実務深掘り、および経営層向けの具体的提言については、本記事末尾に添付の要点整理ノート(PDF)を参照されたい。


 
 
 

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