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Optis v.  Apple英国控訴審判決 Optis v. Apple  UK CoA Judgment

May 6, 2025 SEP


5月1日 英国の控訴裁判所はOpitis v. AppleのSEP訴訟( [2025] EWCA Civ 552)において、2023年の原審(Marcus Smith J)を覆し、原審が双方専門家の証言を無視し、Optisの特許ポートフォリオの価値を過小評価する誤謬を犯したと判断した。そして原審の5,643万ドルの損害賠償額を破棄し、比較可能なアプローチを復活させ、改めて約10倍となる5億200万ドルの損害賠償額を認定した。Appleの支払う総額は2013年から2027年までのOptisの特許のグローバルな使用をカバーするもので、利息を加えると約7億ドル(約1000億円)となり、これは英国のみならず欧州における最高額の損害賠償額となる。


 

裁判官はLJ Newey, LJ Arnold, LJ Birssの3名で、とくに著名なArnold判事とBirss判事が加わり行われたが、本事案では3名一致の判決となっている。

 

LJ Birssは特にOptisの特許の有効性、標準への必須性、そしてAppleによる侵害を認める判決を下した。またAppleをunwilling licenseeと認定した。一方LJ ArnoldはOptisの行った控訴理由について検討を行い、ライセンス契約条件の公正さを担保するため、特許ポートフォリオの強さや交渉のアプローチについて検証し、Optisのポートフォリオの強さは普通だが、Optisの交渉アプローチは一貫性に欠け粗雑であったと批判をした。さらにAppleについては頑なにLump sum(一括払い)あるいは、SSPPU、チップ部品の利益額を超えないロイヤリティなどを主張し、その硬直した交渉アプローチを「善意が欠けている」と批判した。

控訴審で特に争われたのはライセンスの非ロイヤリティ条件(non royalty terms of licence)と外国訴訟に関してであった。前者では利息の支払終了日(interest stop date)に関してOptisの主張が認められた。後者では、主に米国テキサス州での並行訴訟(EDTX)と英国訴訟の関係が争点となった。控訴審は、グローバルなFRANDライセンスを設定する以上、Optisは米国訴訟も含めて全ての請求を解決する必要があるとし、二重回収(double recovery)は認められないと判断した。


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在英国の日高誓子弁護士からも本判決に関するメモをいただいたいたので転載させていただく。

判決の概要:

  • 一審の$0.02DPUが$0.15DPUにかなり大幅に引き上げられた(x2013-2027年の期間のAppleの想定販売台数=$502m)。[Optisのスタックシェアは0.38%、一審の見解を使用した] 金利は更に加わる。

  • 料率はライセンスされるSEPの価値を反映するものでライセンシー特有の性質によって変わるものではない(§53)

  • 一審の、Valuationのエキスパートのエビデンスを否定した根拠(Unpackingするのに主観的な要素があり難しすぎる事・専門家が当事者の指示に従い、独立性がなかったこと)が成り立ってない(§86以降)。エキスパートによると、Appleのライセンスを使用して算出した累積ロイヤリティは3-8%であった(§60)。一審は15%の累積ロイヤリティは高すぎるとの見解だった(§51)。この一審の累積ロイヤリティの見解をベースにOptisのPortfolioの料率が算出されました。

  • 比較性の高いライセンスを解析して料率を算出するのが正しいアプローチである。"I will say a bit more about starting from the SEP holder’s own licences. I maintain that this is the place to start but that is all it is. Factors like hold out and hold up may well render licences of the same portfolio less good as comparables. In this case there are also licences to the putative licensee (Apple). Such licences are capable of being useful comparables, again subject to hold up and hold out, but using them also involves a further dimension which is why, although they may well be useful in the end, they are not the best place to start. Their comparability (not reliability) also depends on the relationship between the patent portfolio being licensed and the SEP holder’s portfolio. Not only does one need a view about stack shares, the issue of portfolio quality arises. It is not enough to render them comparable to say that the SEP holder’s portfolio is average. The other licensed portfolios also have to be examined"(§95、115)

  • 一審はAppleのライセンスを使って料率を算出したが、AppleのバーゲンパワーによりHold Outの効果が含まれており、この点を考慮するべきであった(§122,123)。

  • Re-Trialを避けるため、一審で見出したエビデンスを使い、次のステップを使ってAppleに対するOptis のSEP Portfolioの料率を算出した:

    • Optis / Googleのライセンスを分析してエキスパートが算出したAppleがOptisに支払うべき料率$XB/DPUと、Ericsson, InterDigital, Nokia およびSisvelとAppleのライセンスを分析して算出したAppleがOptisに支払うべき料率($XW/DPU)を比較するとXBの料率が高いことがわかる。なお、Appleのライセンスのうち、Ericsson, InterDigital, Nokia and Sisvelのライセンスを使ってエキスパートが算出したImplied Optis Rateが高めであったことからこれらのライセンスを選択した(§122、132)。[Note also: to the extent there could be a range of FRAND rates, then the patentee is entitled to the top of that range. §143]

    • $XWより下回る料率は低すぎる。よって、一審で算出された料率$0.02DPUが低すぎることが分かる。(§137)

    • Optis / GoogleとEricsson, InterDigital, Nokia およびSisvel/ Appleを比較し、前者の料率は高すぎ、後者の料率が低すぎることが分かる。FRAND料率は中間点にある。(§138、139)

    • Google’のASP を $470と想定すると、累積ロイヤリティが15%の場合、Stack Price(DPU)は$70.5となる。Optisのスタックシェアが0.38%(一審で、Innographyのデータを使って求められた割合)だとすると、Optisのロイヤリティは$0.27DPUとなり、これは$XBより下回る。一審で累積ロイヤリティが15%は高すぎると判示されたので、Optis /Googleのライセンス料率が高すぎる事が分かる。

    • よってAppleがOptisに支払うべき料率は$0.27以下、更にはざっくり料率を決めると選択肢は$0.20、$0.15、$0.10である。$0.10はGoogleのライセンスを使った料率よりはるかに下回るので低すぎる。$0.20は高すぎる。なぜならば、累積ロイヤリティがASP($625)のAppleの端末の場合8%([0.2x100/0.38]/625))、ASP($470)のGoogleの端末の場合10.6%相当に値し、これは高すぎるとした(§144)。[なぜ高すぎるのかは理解できていません。。。]

    • この場合$0.15DPUがFRANDであると決めた。Top Down クロスチェックを行うと、$0.15DPUをベースに計算した累積ロイヤリティはASP($625)のAppleの場合6.3%、ASP($470)のGoogleの場合8.4%となる(§145)

    • $0.15 DPU を使ってLump Sumを計算すると$502mとなる(2013-2027年の期間のAppleの想定販売台数、10% discount on the projected future sales for the 2021-2027 periodを含むー§148、150)。金利は更に加算される。  

  • OptisはUKとUSで同時に提訴することにしたが(それぞれ7件の特許の行使)、その理由はAppleが(i) 英国の管轄を否定するリスクと(ii) 英国裁判所が設定したFRAND料率を含んだグローバルライセンスをアクセプトしないリスクがあるから、とのOptisの説明を受け入れ、並行してUSでも訴えたことに対してOptisには非がない、と判断された。実際、AppleはOptisが予期していた様に英国の管轄を否定し、一審でOptisのUK特許侵害が認容され英国裁判所が差し止めを下す寸前になるまで、Appleは英国裁判所が設定したFRAND条件のライセンスに署名することを約束しなかった。Appleは最初からその約束をするべきであった(§254)。そして、Appleが約束をした時点でUSとUKの訴訟の結果に矛盾(Inconsistency)が生じる可能性を考慮し、どのようにこの矛盾を対処するべきか両当事者が話し合いで決めるべきであった(§233)。 

  • Optisは、UK、USでの特許侵害訴訟に成功し、USでは$300Millionの損害賠償が認められたが、控訴やステイでまだ完結されていない。UKではこの判決で$502mほどのFRAND料率(Lump Sum)が算出され、USとの結果と一致していない。一審はOptisがUSの訴訟を取り止めるべきだとしたが、Appleがそもそも英国裁判所のライセンスを署名する約束をしなかったのが原因なので、それはOptisにとって不公平で間違っている。この場合、Least worst solutionとしてUSの最終決定額を最低額(Floor)とし、USの訴訟で決められた額を認め、英国裁判所が決めたFRANDライセンスがその額を上回る様であればAppleがOptisに差分を払うべきだ、と決めた(§244、257)。この様にして、英国裁判所は国際礼譲に従うことを果たすことが出来る(§258)。(この部分の判決はArnold LJが書き上げています。Interim Licenceの判決が国際礼譲に反すると批判されているので気にしているのかもしれません]

  • 判決のAnnex A / Bにライセンサーのスタックシェアが提示されていて、とても興味深いです.



ポイント:

  • 最適なComparable Licencesを識別し、そのComparable Licencesをベースにライセンス料率を算出すること。基本的には対象特許が同じライセンス(=SEP保有者のライセンス)を使うことが適切。

  • トップダウン方式で算出したライセンス料率のレベルの適切さを確かめる事はGood Practiceである

  • FRANDが領域ならば、SEP保有者はその領域のTop Rangeをオファーする義務があること。

  • 比較するライセンスにHold Outの要素があればそれを考慮して料率を設定する(将来、この要素がどのくらいロイヤリティ額を下げたか、エビデンスに含む事になるかと思います)

  • 並行訴訟が行われている場合、英国の訴訟と矛盾が発生しないか考え、どの様にその矛盾を調整していくべきか検討する義務が当事者にある。

AppleのPR("We will continue to defend against their attempts to extract unreasonable payments.")によるとAppealする感じです

(引用終わり)


Photo: UNSPLASH  Bagus Hernawan
Photo: UNSPLASH Bagus Hernawan

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その他関連解説

Bird&Bird(5月2日付)

The Pendulum Swings Back: Optis v Apple Court of Appeal FRAND judgment – Rapid Reaction

 

IPWATCHDOG(5月1日付)

UK Court of Appeal Bumps Apple FRAND Payment to Optis Up to $502 Million

 
 
 

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