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日本知財学会誌にSEP特集号発刊 Special Issue of SEP on Journal of IPA of Japan published

SEP研究会有志7名で日本知財学会誌第17巻第3号 Vol,17, No.3, 2021への共同執筆を以下のように行った。

7 members of SEP Research Group have contributed the special issue of SEP in the Journal of Intellectual Property Association of Japan.


目次

  • 巻頭言 東京大学未来ビジョン研究センター 客員研究員 二又俊文

  • SEPの権利行使制約論の転換と今後の問題点 ゾンデルホフ&アインゼル法律事務所: 弁護士・弁理士 松永章吾

  • The Power Balance Between SEP Owners and Implementers in SEP/FRAND Litigation in Europe: Analysis of Four Key Characteristics of the European Judicial Landscape: Partner, Noerr Attorneys-at-Law, Munich/Germany, Ralph Nack

  • 標準必須特許に対する独占禁止法の役割:池田・染谷法律事務所 代表弁護士 池田毅

  • 経営視点で見るSEP問題の変化と今後:キヤノン株式会社 常務執行役員 知的財産法法務本部長 長澤健一

  • SEPをめぐる各国政府等の政策動向:特許庁 調整可品質管理室長 船越亮

  • 標準と知財のバランス-標準化団体におけるIPR Policy woめぐる対立と議論から見えるもの:パナソニックIPマネジメント株式会社 エクゼクティブアドバイザー 福岡則子

巻頭言


本特集で取り上げる標準必須特許(Standard Essential Patents,以下 SEP と記す)とは標準規格に準拠した製品の製造やサービスの提供のために実施が不可欠となる特許である.SEP はさまざまな技術分野に存在するが,その多くはモバイル通信分野にあり,近時は 5G,コネ クテッドカー,IoT など繫ぐ技術に関して取り上げられることが多い.モバイル通信の標準規格は,ほぼ 10 年ごとに進化し現在第 5 世代に到達している.その世代交代の間,プレーヤーの顔ぶれや競争のあり方も大きく変化してきた.SEP は強力な交渉・訴訟ツールとなるため,SEP をめぐる権利者と実施者の利害対立は厳しい緊張関係に至ることも少なくなかった.「標 準必須特許(SEP)」という言葉自体がメディアに登場してから実はまだ 10 年にも満たないが, 権利者と実施者の大型係争が相次いだことから今では広く認識されるようになった.

SEP を巡る裁判例は世界中では非常に多い.それらの判例は SEP を取り巻く事業環境・競争環境の変化とともに,内容や判断の仕方が進化してきた.SEP 権利者寄りの判決,SEP 実 施者寄りの判決,揺り戻しなどさまざまに変化してきた.


本特集は世界中で争われた SEP 裁判判例を総括しようとするものではない.判例はあくまで事業環境・企業競争の結果生じた対立が,どう解決されたかの結果にすぎない,判例が事業の新たな潮流を創造するわけではない.しかし,SEP を巡る世界中の裁判の流れを俯瞰・ 分析すると,SEP をめぐる事業環境,企業競争の変貌の本質が見えてくる.

筆者らは SEP について産官学法曹メンバーで 2013 年に設立した SEP 研究会で,長らく SEP の変化する様子を見てきた.今回の特集号での執筆者はそれぞれ別々の専門分野に属す. 法曹で知財法,競争法,あるいは欧州法の専門家,さらに企業幹部として SEP を見つめてき た者,そして,標準化団体における IP ポリシーの議論に加わった者,そして,各国施策・ガ イドラインを見てきた官公庁のメンバーなど多彩な人材が執筆に参加した.特集号の構成は, まずリーガルの側面から 3 人の弁護士が SEP 判例の流れを考察し,続いて企業経営の立場か らの SEP の景色と変化,さらに各国における SEP 施策・ガイドラインの流れを俯瞰したあと, 最後に標準化団体における SEP をめぐる IP ポリシーをめぐる対立について触れる.「リーガ ル→経営→各国政策当局→標準化団体」の順に,多面的な視点から SEP の過去,現在,そし て将来への課題を浮き彫りにすることを意図した.

モバイル通信分野を中心に振り返れば,SEP をとりまく事業環境・競争環境はほぼ 10 年単位, 最近は 5 年単位で変化している.大まかに表すと 2000 年ごろの景色(モバイル通信分野のレ ガシー企業 v. 新興企業),2010 年ごろの景色(第 4 世代通信規格 LTE が始まり,スマートフォ ン普及のもとでの SEP 係争の増大),2015 年ごろの景色(増加する係争の下,SEP 権利行使 への制約と制限の綱引きの時代),そして 2020 年の景色(権利者優位の時代)と変化をしている. そのような事業環境・競争環境の変化のもと判例も変化をしてきた.

SEPをとりまく20 年の環境の変化のポイントは有力な端末メーカー,オペレータ(レガシー企業)が作り上げた垂直統合型のビジネスモデルがサムスンやアップルのような新興企業にとって変わられたことである.クアルコムのように激動の時代を乗り切った企業もあると同 時に,多くのレガシー企業が競争の舞台から消えていった.しかし,SEP は有力なツールと してその激動のなかで常に着目され,活用されつくされてきた.

SEPを巡る議論は 2000 年代,2010 年代と進むにつれ,行政,司法,標準化団体などさまざ まな場所で議論が積み重ねられ,論点が徐々に整理されていった.SEP には標準,知財法(特 許法),契約法(民法)や独占禁止法(競争法)が交錯する特殊性があり,法域を超えた検討 も必須であった.また通信技術の広範な利用が進み,より多くの権利者と実施者が絡むこと から,広範なビジネス上の利害調整が必要となっている.振り返ればこれまでの SEP の議論 はさまざまな対立を一歩ずつ乗り越えてきた歴史でもある.対立を乗り越えることは容易で ないがいたずらに硬直的な「権利者 v. 実施者」対立構造にとらわれた議論のみを重ねるとす れば,時間のみが徒過し,やがてグローバルなビジネス競争の舞台から消えてしまうのではなかろうか.


本特集での各執筆者を紹介する.ゾンデルホフ&アインゼル法律特許事務所・弁護士の松永章吾氏は,2010 年代の SEP 権利行使の制約の経緯を整理し,2020 年に入ってからの差止容認など権利者保護への変化が起きている現状のほか,今後の問題点について述べている.

Noerr 法律事務所・弁護士の Dr. Ralph Nack 氏は欧州における SEP・FRAND 裁判において, SEP 権利者と実施者のパワーバランスがどのように変化してきたかを考察し,パワーバランスの 4つの決定要素(エンフォースメントに関する法的規制,FRAND,裁判所の決定範囲) について解説している.

池田・染谷法律事務所・弁護士の池田毅氏は,SEP と独占禁止法・競争法との歴史的関係 を振り返りながら,標準・知的財産権・独占禁止法の三者の関係を整理し,それぞれの射程と関わりを論じている.さらに各国競争法の異同や近年のトレンドの推移をクアルコム事件, ノキア・ダイムラー事件などを取り上げながら分析している.

キヤノン株式会社の長澤健一氏は,企業経営者の視点から標準の意義や SEP 問題をどう捉 えているかを論じたうえで,SEP に関する紛争解決手段としての標準化団体の施策やパテン トプールの意義を再考し,将来に向けて企業の知的財産戦略はどうあるべきかについての見 解を示している.

特許庁の船越亮氏は,SEP に関する紛争が世界中で多発するなか,SEP の透明性や予見性を高めるため,日本,米国,欧州,中国,韓国で採られてきた政策動向を詳しく解説すると 共に考察を加えている.

パナソニック IP マネジメント株式会社の福岡則子氏は,2010 年代に標準化団体(ITU や ETSI)での IPR ポリシー策定の議論に直接参加されていた経験に基づき,議論の経緯を紹介 すると共に標準化団体の果たす役割と意義を考察している.

6 人の論者の論考は SEP という一つのテーマを扱いながらも,それぞれの専門分野,立場 からの異なるアプローチをするものであり,さまざまな視点から見た「SEP 像」を浮かび上 がらせる示唆に富んだ内容となっているのではなかろうか.この特集が往々にして言われる 「わかりづらい SEP議論」についての理解を深めることを執筆者一同願うと同時に,我が国の SEP 戦略,政策立案の議論に貢献できることを希求している.




 
 
 

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