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(試論) Panasonic v Xiaomi控訴審判決と英国におけるSEP訴訟モデルの特性 UK's SEP Litigation Model In Light of Panasonic v. Xiaomi case




2025-APR-13 UK SEP


元USPTO長官のDavid Kappos氏のIAM誌での示唆に富む寄稿をきっかけに、英国と大陸欧州(とくにUPC)におけるSEP紛争解決モデルの構造的差異について議論がされているが、ブログ筆者(二又)の視点から試論をまとめた。


本稿では、2024年10月の英国控訴院におけるPanasonic v Xiaomi判決([2024] EWCA Civ 1143, 3 October 2024)を考察する。


この判決は、現在の英国SEP訴訟モデルの核心がどこにあるかを示唆するもので、特に「unwilling licensor」の概念の位置づけに注目が集まった。控訴審Arnold判事は判決においてはPanasonic をunwilling licensorと明示的に断じたわけではないが、Xiaomiに対して下された宣言的救済(declaration)の文言や、裁判所からの発信からは、実質的にPanasonicをunwilling licensorと見るような言動を繰り返し示した。このため、JUVE Patentはじめ多くの業界誌や主要法律事務所(たとえばLinklaters)の記事にも影響を与えた。

• JUVE Patent: UK Court of Appeal puts dampener on Panasonic SEP battle

• Linklaters解説: Landmark Win for Xiaomi in the UK Court of Appeal


本判決にポイントは次の宣言が発出されたことで、これらの宣言はXiaomiにとって(理論的には)有利な法的立場を形成させることとなった。


宣言は次の3点からなり:

1. Panasonicは2023年11月8日に表明した無条件のFRANDライセンス提供の約束(unconditional undertaking)に違反した。

2. Panasonicのような立場にある誠実なライセンサーであれば、interim licence(暫定ライセンス)に応じたであろう(仮定法表現)。

3. かかるinterim licence提案を拒否するライセンサーは、誠実性を欠き「unwilling」と見なされることになる。


この宣言はさらに重要な効果として、UPCおよびドイツにおける並行訴訟への戦略的牽制の仕組みが織り込まれており、英国裁判所の制度的存在の再確立を図ろうとしていたと考えられる。


議論をリードしたArnold控訴審裁判官はその後の2025年2月にブリュッセルで開催されたCRA主催のSEPセミナー(https://events.crai.com/modernising_sep_licensing/conferencerecordings)においても、でもこの判決の意義を強調し、Panasonicの大陸における訴訟を取り下げない対応を「全く正当化できない」と批判しており、interim licenceの締結が最も合理的な解決策であったと発言している。さらに、3月に同裁判官はワルシャワで開催されたセミナーでも、英国モデルと大陸モデルの違いについて言及しつつ、英国における事案解決を

有意と強調した。


もっとも一方で、同じ控訴院パネルのPhillips判事は少数意見の中で、この宣言的救済よりもanti-suit injunction(ASI)のような明快な訴訟排除手段の方が有効であるとの問題提起も行っており、Arnold判事のInterim licenceと宣言パッケージによる解決策が中立性を保持できているか疑問を呈している。


この判決は、契約法に基づく「結果志向(outcome-driven)」の英国的枠組みと、競争法に基づき当事者の交渉過程を重視する「行動規範志向(conduct-driven)」の大陸的アプローチとの構造的対比を浮き彫りにしており、短期的には前者が迅速な訴訟解決に資する一方、中長期的には交渉の誠実性の評価を行わない手法の妥当性が問われることになる。


追記:Ericsson v. Lenovo判決との関連性

同様の展開は、2025年2月28日のEricsson v. Lenovo判決にも見られる。同判決文第157段落において、裁判所は以下のように述べる:

“For the reasons given above I conclude that: (2) a willing licensor in the position of Ericsson would enter into an interim licence with Lenovo pending that determination, and FRAND terms for that licence would be those set out in the preceding paragraph;”

この段階ではEricssonが明示的に「unwilling licensor」と認定されたわけではないが、3月10日までにEricssonがinterim licenceに応じなかったことから、最終的に同社は裁判所によりunwillingとされた。これは、宣言的救済が事実上の訴訟圧力として機能する英国特有の訴訟運営を象徴する事例といえる。


本試論にあたり、日高誓子英国弁護士、パナソニック社高橋弘史氏よりいただいたさまざまな示唆に深く感謝する。


 

 
 
 

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