「標準必須特許のASI (禁訴令)を巡る国際紛争
──中国で多発したASIの背景と今後の展望──」 Multiple Dispute over ASI of Standard Essential Patens—Present and Future
二又俊文・松本要共著
(一社)日本知的財産協会「知財管理」Vol.73 No.3 pp.284~298 (2023)
抄 録
ASI(Anti-suit Injunction訴訟禁止命令)は英米法の法理で重複訴訟による不合理を解消 するためのツールである。しかしこの法理は,2020年中国企業が海外企業からの訴訟を効率的に防御 する手段として,外国企業の海外訴訟を禁じる命令(禁訴令)が中国裁判所から相次いで発出された ことにより,一躍国際的な注目を集めるようになった。海外企業や海外裁判所は反発を強め,議論は WTOの場にも上がっている。この禁訴令の背景には中国企業の海外進出の中,中国企業が従来から の海外ルールを甘受し続けるかという議論があったが,実は禁訴令は突然に現れたものではなく,中 国内部での専門家による緻密な議論のなかで,中国の「偉大な夢」を実現するために現れた事象であっ た。本稿では中国国内資料も検討しながらこれを立証する。そして今や禁訴令はその手段としての主 役の座を,2022年8月施行の新独占禁止法に譲りつつあることを指摘する。