Biden大統領から米国における競争環境強化についての大統領令が7月9日に出された。
大統領令の主眼は米国経済で進む寡占により、富やデータの集積などが米国の労働者・ビジネス・消費者の利益が損なわれているとして、米国経済における競争促進をはかるため、競争法の適用を強化する点にある。特にBIC TECHによる将来競争相手となる企業の買収や、個人データの過度の収集が主要ターゲットと見られるが、大統領令が触れている範囲は広範で、SEPについても言及があった。
アメリカはオープン市場における競争が維持できる環境を重視する。堅固な競争環境こそが世界市場での米国の役割を確かなものにする。集中化consolidationへの圧力は排除されなければならない。
米国IT市場は長らくinnovationと成長へのエンジンだった。しかし、今日少数のインターネットプラットフォームが新たな市場参入を妨害している。そのため、たとえばテレコム分野でも十分な競争がないまま、アメリカ人は通信料金、ケーブルテレビ加入料などを過大に支払っている。
適用される法的規範
第5章の「さらなるエージェンシーへの指示」のなかで、SEPについての短い記述があり、「市場支配力ならびに標準化過程における濫用を監視するためDOJ長官と商務長官は連携すること。さらに2019年12月19日に(前政権下で)出されたDOJ,USPTO, NISTの共同文書(注)については改訂するかどうかを検討する」と述べられている。
(注)Policy Statement on Remedies for Standards-Essential Patents Subject to Voluntary F/RAND Commitments issued jointly by the Department of Justice, the United States Patent and Trademark Office, and the National Institute of Standards and Technology
(ブログ筆者見解)今回の記載をどう評価するか難しい面もある。2019年共同文書は当時SEPの権利行使に対する見解を修正し、SEPはあくまで特許権の一部であり、正当な権利の行使は制約されるべきではないというDOJの見解を述べたものであった。それを今回見直しするという意味は、特許権の範囲を超えた(beyond the scope of granted patents)市場支配力の濫用は認めないと述べるが、その意味はSEPを保有することで市場を独占しよう、ライバルを排除しようとするなどの行為を反トラスト法で規制強化しようとしていると解する。Qualcomm事件(FTCv. Qualcomm)で議論されたような巨大なSEP権利者の権利濫用を暗に指すのであろうか。また、標準化過程における逸脱とは、かつてはRambus事件のような例もあったが、今は(読み過ぎかもしれないが)標準化策定団体における活動で近年ますますの存在感と影響力を巨大化している中国の存在を意識したものだろうか。いずれにしてもどのような事象をさすかまだ読み解きづらい。今後のDOJからの発信には注視したい。
なお、大統領令を受け、両競争当局もそれぞれプレス発表を同日行った。
1)DOJ (Attorney General Merrick B. Garland )
大統領令の趣旨に従い、競争法の適用を強化することを検討する。たとえば
harmful mergers and stopping anticompetitive conduct かつてAT&Tの巨大独占を打破するためFCCと共同したように、他のエージェントとも連携する。労働市場、ヘルス市場での競争強化を行う。
2)FTC (FTC委員長Lina Khan, Acting Assistant Attorney General of the Justice Department Antitrust Division Richard A. Powers)
M&Aについての対応をするため、Merger Guidelinesの改訂検討する。
(いわゆるhard look at merger guidelines)
Photo: Unsplash Don Shin
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