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5G SEPレポートはどう作られ、どう使われるべきか(Part 2) Reading 5G SEP Reports​-- How They Should Be Made, and How They Should Be Used

4 時間前
読了時間: 12分

October 13, 2026 by Toshi Futamata


はじめに

PART1では、5G SEPの分布を公表している7機関のレポートを同じ項目で並べ、評価を加えずに整理しました。見えてきたのは、同じ「5G SEP」という言葉の下で、何を数えるか、必須性をどう判定するかが機関ごとに大きく異なり、その結果として順位もシェアも大きく変わるという事実です。

本稿は、この比較を踏まえた筆者の意見です。言いたいことは三つあります。

1.調査会社は、まず身を正し、調査手法を開示すべきである。

2.SEPはグローバルなゲームである。調査会社は英語でも発表して外部の精査を受け、使う側もグローバルな物差しで数値を評価すべきである。日本の調査であっても例外ではない。

3.使う側は、レポートの最後の1行、つまり順位とシェアだけを抜き出して使うべきではない。まず、その調査会社が手順を守っているかを、最低限確かめるべきである。

なぜ、ここまで細かく言うのか。データという事実に対して真摯な姿勢を貫かなければ、その上に積み上げる判断はすべて曖昧なものになるからです。引用するデータが確かなものでなければ、どれほど精緻な議論も、それだけで揺らいでしまいます。政策も、交渉も、報道も、出発点はデータです。データに対しては、作る側も使う側も、常に真摯でなければなりません。


1.SEPはグローバルなゲームである

5Gの必須宣言は、世界中の企業がETSIに対して行います。ライセンス交渉は世界のポートフォリオ単位で行われ、紛争は複数の国の裁判所に同時に持ち込まれます。英国の裁判所はUnwired Planet v Huawei(2017年)で、SEPのシェアに基づくトップダウンの算定を料率の検証に用いました。SEPのシェアは、名誉の問題ではなく、交渉と裁判で使われる数値です。

国内でも、こうした数値は政策の物差しになっています。総務省は、Beyond 5Gの必須特許シェアに数値目標を置き、その基準と進捗の把握を調査会社の推定に依拠しています(第5節)。報道でも、順位とシェアは繰り返し引用されています。

数値が使われる場面が重くなるほど、その数値は外部から検証できるものでなければなりません。そして、SEPの舞台が世界である以上、検証する人も世界にいます。


2.作り方が変われば、結果が変わる

PART1の7機関は、作り方によって三つに分かれます。


表1 5G SEPレポートの三つの作り方

作り方

何を数えるか

長所

限界

宣言ベース

(LexisNexis、Patently、CAICT)

ETSIへの必須宣言(自己申告)の件数

網羅的で、第三者が再現しやすい

必須性については何も語らない

全件評価

(GreyB 2024年版、Clarivate Phase 4)

宣言された全ファミリーを人手で規格と対照

件数の積み上げを追え、最も検証しやすい

費用と時間が大きい

サンプル推定

(サイバー創研、PA Consulting)

企業ごとのサンプルで必須率を求め、宣言件数に掛ける

大量の宣言に対応できる

サンプルと判定基準が見えなければ、外部から検証できない

出典:PART1。PA Consultingの公開順位は宣言ファミリー数に基づき、必須性評価に基づく順位は有償の購読者向け。


必須と判断された割合も、Clarivateは約22%、GreyBは37%、サイバー創研は平均40%、PA Consultingは全体で50%以下と、ばらつきます。対象期間、ファミリーの定義、判定の基準が異なるからです。

順位も同様です。PART1第4節で示したとおり、日本の代表的な5G権利者であるNTTドコモの順位は、レポートによって3位から13位まで分かれました(Patentlyの13位はNTTグループの合算)。どれかが誤っているということではありません。何を数え、どう判定したかが違えば、結果は違って当然です。問題は、その違いが利用者から見えるかどうかです。

もう一つ重要な変化があります。GreyBは、2024年版では21,221ファミリーを全件評価しましたが、2025年版では対象が57,477ファミリーに増え、574ファミリーのサンプル評価に移りました。宣言が増え続ける中で、全件評価を続けることは難しくなっていきます。今後はサンプル推定が主流になると考えられ、だからこそ、サンプル推定の手法をどう開示するかが問われます。


3.調査会社へ(その1)―まず身を正し、手法を開示する

レポートの価値は、結論の数字ではなく、その数字に至る手順の確かさにあります。手順が見えなければ、数字は信じるか信じないかの対象にしかなりません。調査会社は、少なくとも次の事項を開示すべきだと考えます。


・  データの範囲と時点:どのデータベースの、いつまでの宣言か。ファミリーの単位は何か。

・  必須性の判定の有無と方法:全件評価かサンプル推定か。サンプル推定であれば、企業ごとのサンプル数と抽出方法。

・  判定の基準:規格の必須部分のみか、任意部分を含むか。どの請求項を評価するか。

・  結果の算出方法:企業ごとの必須率、平均の算出方法(単純平均か加重平均か)、総数とその単位。

・  推定の幅:サンプル推定であれば誤差の幅。上位の企業どうしの差が誤差の幅より小さいときは、そのことを明示する。

・  評価の体制:評価者の人数と要件、チェックの体制。

・  AI・LLMの使用:使用の有無、使う場合はどの工程で、どのように人が確認しているか。

・  版ごとの変動の理由:順位やシェアが大きく動いたとき、宣言件数の変化によるのか、必須率の再推定によるのか。


今回の比較では、すでに良い実践も見られました。GreyBとClarivateは、評価した件数と必須と判断した件数を公表しています。PA Consultingは評価の基準を示し、公開している順位が宣言ベースであって必須性評価後の順位ではないことを、明確に区別しています。LexisNexisは、宣言ファミリー数、Patent Asset Index(特許の技術的な重要性と市場での広がりを示す同社の指標)、3GPPへの技術寄書数という性格の異なる三つの指標の順位を平均して、総合順位を付けています。宣言の多さだけでなく、特許の質と標準化への貢献をあわせて見ようとするもので、ランキングの作り方として興味深い試みです。各指標のシェアと順位も併記されているため、利用者は、総合順位がどの指標に支えられているかを確かめることができます。


世論調査を思い出してください。新聞は内閣支持率を報じるとき、必ず調査方法と回答数を添えます。サンプルで推定した数値には、その作り方を添える。それが当たり前の作法です。SEPのシェアだけが例外であってよい理由はありません。

サンプル推定では、とりわけ企業ごとの必須率が鍵を握ります。ある企業のシェアは、その企業の宣言件数のシェアと、その企業の必須率が平均の何倍かとの掛け算で決まります。たとえば必須宣言シェアが4%の企業が8%のSEP保有シェアを得るには、その企業の必須率が平均の2倍でなければなりません。そうした値はありえないものではありませんが、外部から確かめられなければ、結論の重みを支えることはできません。

詳細を有償の報告書で提供すること自体は、正当な事業です。しかし、手法の骨格までを有償の側に置くべきではありません。結論を無償で公表し、検証に必要な情報を非公開にすれば、検証されないまま結論だけが広がることになります。


4.調査会社へ(その2)―英語で発表し、外部の精査を受ける

レポートは、世界の実務家、裁判所、他の調査会社に読まれ、批判されることで信頼を得ます。LexisNexis、GreyB、Clarivate、PA Consulting、Patentlyは英語で手法を説明しており、互いに比べられる立場にあります。一方、CAICTの報告書本体は中国語のみです。日本の調査会社も、英語で読めるのはプレスリリースの要約までで、手法の詳細は日本語でも英語でも公開されていません。数値は海外でも引用されていますが、手法の詳細が公開されていないため、外部の専門家が手法そのものを検証することはできません。

手法を検証できない数値は、交渉の場では弱いものです。ライセンス交渉や裁判で、相手方は必ず数値の根拠を問います。英語で手法を説明できない数値は、国内でどれほど引用されていても、国際的な議論では通用しません。英語での開示は、調査会社のためだけでなく、その数値を使う日本企業と我が国の政策のためでもあります。


5.使う側へ(その1)――最後の1行だけを使わない

使う側にも申し上げたいことがあります。政策資料や報道では、レポートの最後の1行、つまり順位とシェアだけが「○○調べ」として使われ、何を数えたか、いつ時点か、必須性をどう判定したかは省かれがちです。7機関で同じ企業の順位が大きく異なる以上、その中から一つの数値だけを手順を確かめずに使えば、それは調査の結果ではなく、引用する側の選択、つまりチェリーピッキングになります。


政策資料での使われ方

総務省は2020年6月の「Beyond 5G推進戦略」で、2030年時点のBeyond 5G必須特許数シェアを「10%以上」とする目標を掲げ、その基準となる世界トップシェアを脚注で「サイバー創研調べ」としました。2024年9月の同省の講演資料と2026年1月の「情報通信に関する現状と動向」も、日本企業全体の保有率を「15%程度」とし、同社の調査を出所としています。ただし、出所の調査は前者が2021年11月、後者が2024年5月で、同じ「15%程度」の出所が資料によって異なります。

国の数値目標の基準と進捗の把握が、手法の詳細が公開されていない一社の推定に依拠していることになります。物差しが外部から確かめられなければ、2030年の達成も評価できません。重要な政策の物差しとしては、測定の方法が公開され、第三者が再現でき、できれば複数の手法で裏付けられた指標を用いることが望ましいと考えます。


報道での使われ方

日本経済新聞は2026年1月29日、用語解説の欄「きょうのことば」で、次のように記しています。

「調査会社サイバー創研(東京・港)の推定では、2025年12月時点の高速通信規格『5G』における特許のシェア首位は韓国サムスン電子で8.9%、2位は中国・華為技術(ファーウェイ)の8.2%、3位のNTTドコモが8.1%となっている。」

経済報道を代表する新聞の記事としては、やや注意を欠いた引用と言わざるをえません。理由は三つあります。

・  「特許のシェア」とあるが、実際は宣言件数にサンプルで推定した規格整合率を掛けた「推定保有数」のシェアである。

・  サンプル推定であることが示されず、2位と3位の差0.1ポイントに推定の幅がどれだけあるかも分からない。

・  他の調査では上位3社の顔ぶれも順位も異なることに触れていない。

基礎知識をやさしく伝える用語解説は、読者が議論を始める出発点です。出発点に置く数値こそ、何を数えた推定か、調査によって結果が異なることを一言添えるべきだと考えます。


「虚像」が「実像」になるとき

日本企業が5G SEPで世界3位のシェアを持つという像は、もともと一社のサンプル推定から生まれたものです。それが政府の資料に載り、新聞の用語解説に載ることで、検証を経た事実のように扱われていきます。いわば「虚像」が、なかば日本では「実像」になってしまうのです。

もしそれを実像と言うのであれば、それに見合う事実を公開し、検証にさらさなければなりません。サンプル数、判定基準、企業ごとの必須率を、海外の専門家も確かめられる形で示すこと。それができて初めて、この数値は日本の立場を支える根拠になります。使う側が確認すべき事項は、第7節の表2にまとめました。


6.使う側へ(その2)――グローバルな物差しを使う

SEPがグローバルなゲームである以上、数値を使う側もグローバルな物差しで評価すべきです。国内の調査であることは、信頼の度合いを上げる理由にはなりません。第4節で見たとおり、手法の詳細が公開されていない数値は、外部の専門家が手法そのものを検証することはできません。検証できない数値ほど、使う側が自ら確かめる必要があります。

手法が公開されているか、英語で読めるか、他の調査との違いが説明できるか。この問いを、国内の調査にも海外の調査にも同じように当てること。それがグローバルな物差しです。国内でしか通用しない物差しで測った数値は、交渉の場でも国際的な議論でも、日本の立場を支えることはできません。


7.開示と確認のチェックリスト(案)

以上を、作る側と使う側の双方から一つの表にまとめます。

表2 SEPレポートの開示と確認のチェックリスト(筆者案)

項目

調査会社が開示すべきこと

使う側が確認すべきこと

データ

データベース、宣言の時点、ファミリーの単位

引用する数値の時点と版

作り方

宣言ベース、全件評価、サンプル推定の別

何を数えた順位か

サンプル

企業ごとのサンプル数と抽出方法

サンプル推定の場合、サンプル数が公開されているか

判定基準

必須部分・任意部分の扱い、評価する請求項

基準が公開されているか

結果

企業ごとの必須率、平均の算出方法、総数と単位

シェアの分母と分子が分かるか

推定の幅

誤差の幅。上位の差が誤差内であればその旨

順位の差に意味があるか

体制

評価者の人数・要件、チェックの体制

専門家による確認があるか

AI・LLM

使用の有無、工程、人による確認の方法

使用の有無が開示されているか

変動

版ごとの大きな変動の理由

前版から大きく動いた理由が説明されているか

言語

手法の説明を英語でも公開

外部の精査を受けているか

比較

他のレポートとの違いの説明

複数のレポートの幅を示しているか


おわりに

SEPのレポートの数値は、政策や交渉や報道の出発点です。出発点のデータが揺らげば、その上の判断もすべて揺らぎます。だからこそ、作る側は手法を開示し、英語で発表して世界の精査を受け、使う側は最後の1行だけを抜き出さず、グローバルな物差しで手順を確かめてから使う。この当たり前の規律が、SEPをめぐる議論の質を支えます。

今回、質問票に誠実に答えてくださった各社は、すでにその規律の多くを実践しています。日本の調査会社について言えば、その数値が国際的な議論に耐えるものとなるよう、手法の開示と英語での発表を強く期待します。

本稿の評価と意見は筆者個人のものであり、LexisNexisを含む各社の公式見解を示すものではありません。各社の手法についての記述は、PART1に掲げた各社の回答と公開資料に基づいています。


参考資料

で掲げた各社レポートのリンクもあわせてご参照ください(2026年10月時点)。


・総務省:「Beyond 5G推進戦略 -6Gへのロードマップ-」の公表(2020年6月30日) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban09_02000364.html

・総務省技術政策課長:総務省における情報通信技術戦略 -Beyond5G・AIを中心に-(2024年9月13日、電子情報通信学会) https://www.ieice.org/jpn_r/activities/kikakusenryakushitsuevent/assets/pdf/20240913_02.pdf

・総務省:情報通信に関する現状と動向(2026年1月、参考資料3) https://www.soumu.go.jp/main_content/001053461.pdf

・NTTドコモ:ドコモの5G必須特許保有数3位を維持、通信事業者としてトップ(2026年3月30日) https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/corporate/technology/ipr/topics_260330_00.pdf

・NTTドコモ:特許庁長官との知的財産活動に関する意見交換会を実施(2026年7月28日) https://www.docomo.ne.jp/binary/pdf/info/news_release/topics_260728_d1.pdf

・NTTドコモ:ドコモの知的財産(5G必須特許に関する過去の発表の一覧) https://www.docomo.ne.jp/corporate/technology/ipr/

・日本経済新聞:ドコモ、5G必須特許シェアが世界3位に(2021年4月8日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC089070Y1A400C2000000/

・日本経済新聞:標準必須特許(SEP)とは スマホなど通信サービス普及に不可欠(きょうのことば、2026年1月29日) https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD283Q40Y6A120C2000000/

・GreyB:Who Owns the Core 5G Technology? 5G SEP Report 2024 https://greyb.com/resources/reports/5g-sep-report-2024/



 
 
 

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