5G SEPレポートはどう作られているか(Part 1) Reading 5G SEP Reports
――主要調査会社への質問票の回答から
October 9, 2026 by Toshi Futamata
はじめに
SEPの世界では、技術分野ごとに、SEPがどのように分布し、誰が市場をリードしているかを示すレポートが数多く公表されています。セルラー、Wi-Fi、映像コーデック、IoTなど対象はさまざまで、その数値は報道、政策資料、ライセンス交渉の場で引用され、重要な役割を果たしています。
しかし、こうしたレポートが何を数え、どのような方法で結論を導いているのかは、利用する側から見えにくいのが実情です。すべての技術分野を比較することはできません。本稿では、複数の会社が継続的にレポートを発表しているセルラー技術の5Gを取り上げ、比較を行うことにしました。世界の主要な調査会社に、同じ質問項目でアンケート調査を行いました。幸い、ほとんどの会社から直接回答を得ることができました。
それぞれの技術分野で、どの企業が重要な役割を果たしているかを知ることは重要で、そうした順位はよく引用されます。そこでアンケートには5Gランキングの質問も含めました。ただし、それはあくまで付随的な情報です。本来の目的は、5Gのレポートが各社でどのように作られ、どのような課題を残しているのかを知ることでした。その結果、一番よく引用されるランキングでも、データの範囲、時点、必須性の扱いによって、各社の位置が大きく異なることがわかりました。この事実は、第4節に記載します。
調査の方法
対象は、5G SEPの分布や保有状況についてレポートを公表している次の7機関です。LexisNexis(米国)、GreyB(シンガポール)、Clarivate(英国)、PA Consulting(英国)、Patently(英国)、サイバー創研(日本)、CAICT=中国信息通信研究院(中国)。
CAICTを除く全社に同一の質問票を送り、LexisNexis、GreyB、Clarivate、PA Consulting、Patentlyの5社の回答を掲載しています。質問項目は次のとおりです。
レポートの概要/データの時点と分析の性格/必須性判定の有無と件数/AI・LLMの利用/専門家レビューの体制/担当者の要件/第三者機関での利用/順位の公表/次版の予定/費用/その他
掲載前に、各社には自社の記載部分のみの事実確認を依頼し、回答を反映しています。サイバー創研については、公開情報のみに基づいて記載しました。CAICTには質問票を送らず、公開されている2026年4月版の報告書のみに基づいて記載しています。
回答の全文と出典は、添付の比較表(Excel/PDF)にまとめました。本文では、その概要を示します。
1.全体像――何を数えているのか
機関(国) | 報告書 | 区分 | 必須性の判定 | AI・LLM | 費用 |
LexisNexis (米国) | Who Is Leading the 5G Patent Race? 2026(2026年1月) | 宣言ベース (3指標の順位の平均) | 公開版は行わない。契約者向けDBに特許単位のスコア | 公開版は対象外。DBのスコアにLLMを使用 | 公開版は無償 |
GreyB (シンガポール) | Who Owns the Core 5G Technology? 5G SEP Report 2024 | 必須性評価 | 全件(21,221ファミリー)を人手で評価 | 使用しない | 無償 |
Clarivate (英国) | Manual SEP: Phase 4(2024年2月) | 必須性評価 | 全件(38,115ファミリー)を人手で評価 | 使用しない | 無償 |
PA Consulting (英国) | 5G Standard Essential Patents Transparency(2025年7月) | 必須性評価 (公開部分は宣言ファミリー数) | 層別の標本を、技術者が人手で評価 | 使用しない | 有償 |
Patently (英国) | Patently 100® Cellular 2026(2026年1月) | 宣言ベース | 行わない(必須性データは別の有償製品) | 回答に記載なし | 無償 |
サイバー創研 (日本) | 5G-SEP関連の分析結果 第8版(2026年3月) | 必須性評価 (標本による推定) | 標本で規格整合率を評価し、全体を推定 | 公開情報に記載なし | 詳細は有償 |
CAICT (中国) | 全球5G標準必要専利及標準提案研究報告(2026年4月) | 宣言ベース | 行わない(照合していないと明記) | 公開情報に記載なし | 無償 |
大きくは二つに分かれます。宣言ベースは、企業がETSIに「5Gに必須」と宣言した特許を数えるもので、必須宣言は自己申告であり、規格との対照は行いません。必須性評価ベースは、宣言された特許の請求項を規格の仕様と対照し、必須かどうかを判断するものです。全件を評価する方法と、標本を抽出して推定する方法があります。
2.必須と判断された割合
必須性評価ベースのレポートが示す、宣言された特許のうち必須と判断された割合は、次のとおりです。
・Clarivate:約22%(38,115ファミリーのうち8,508ファミリー、全件評価)
・GreyB(2024年版):37%(21,221ファミリーのうち7,950ファミリー、全件評価)
・サイバー創研:全体の規格整合率の平均が40%(同社発表。平均の算出方法は公開資料に記載なし)
・PA Consulting:上位25社で約10〜90%、全体では50%以下(2025年7月版)
これらは、対象とする期間、特許ファミリーの定義、判定の基準が同じではありません。たとえばPA Consultingは規格の必須(mandatory)部分への対応を基準とし、GreyBは必須部分・任意部分の双方を含めて規格との対応を見ています。数値を直接並べて比べることはできません。
3.各社の調査方法
LexisNexis(米国)
対象は、2025年10月31日以前に宣言された5G宣言ファミリー(登録特許を1件以上含むもの)と、2015年1月1日から2025年10月31日までに3GPPへ提出された5G関連の技術寄書です。①宣言ファミリー数、②Patent Asset Index、③3GPP技術寄書数の3指標の順位を平均して総合順位を付けます。個別特許と規格の対照(クレームチャート)は行わず、公開レポートでは必須性を判定しません。契約者向けのIPlytics 5Gデータベースには特許単位の必須性スコアがあり、最新の手法ではLLMを用いています。データと手法は、データサイエンティストとSEP専門家が検証し、Cellular Verifiedにより上位35社の5G特許権者と協業して宣言・ポートフォリオデータを検証しています。毎年1月に更新されます。
GreyB(シンガポール)
2024年版は、ETSI宣言を2019年12月31日まで、権利状態を2022年12月31日時点とし、有効な登録特許を1件以上含む21,221ファミリーをすべて個別に評価しました。15名以上の分析者が担当し、各人の成果は上級SEP専門家が確認しています。最も広い独立請求項が関連する5G規格に完全に対応する場合を「コアSEP」とし、7,950ファミリー(37%)を判定しました。AI・LLMは判定のどの段階でも使用していません。2025年版は対象が57,477ファミリーに増え、全件評価から標本評価(574ファミリー)に移行しています。
Clarivate(英国)
Phase 4は、2016年から2022年12月31日までに5G規格に必須宣言された特許を対象とし、登録特許を含む38,272ファミリーのうち、クレームまたは宣言規格が入手できないものを除く38,115ファミリーを手作業で評価しました。各ファミリーの代表特許を一つ選び、独立請求項の特徴が宣言された5G規格のいずれかに見いだせる場合に「コア」と判定し、8,508ファミリー(約22%)がこれに当たります。標本抽出は行わず、AIツールも使用していません。評価者は通信工学の素養とSEP分析経験5〜15年を持ちますが、人数は非開示です。
PA Consulting(英国)
2025年7月版は、2025年5月までのETSI宣言を対象とします。宣言件数が多いため、企業ごとに統計的に有意な標本を層別に抽出し、10名を超える技術者が、クレームのすべての構成要件が技術仕様の必須(mandatory)部分に対応するかを評価します。評価者は全員、標準関連製品の開発経験を持つ技術者で、AI・LLMは使用していません。必須と判定した件数と、必須性評価に基づく順位は、有償の購読者にのみ提供されます。公開されている順位は、宣言ファミリー数に基づくものです。次版は2026年10月末までに、2026年8月までの宣言を対象として公表される予定です。
Patently(英国)
2025年末までに公開され、ETSIのIPRデータベースで5Gに宣言されたファミリー約10万9,000件を特定し、そのうち約6万9,000件が、1件以上が登録済みで有効な「Established」ファミリーです。優先権関係とETSI宣言データから独自のファミリー(Genetic®ファミリー)を構築し、保有者名を正規化したうえで最終保有者に集約します。各ファミリーは1社にのみ計上します。ランキングはEstablishedファミリー数によるもので、公開ランキングは必須性を評価しません。必須性データは別の有償製品として提供されています。次版は2027年1月の予定です。
サイバー創研(日本) ※公開情報のみ
第8版(2026年3月30日発表)は、ETSIのSEP一覧(2025年12月末集計)をINPADOCファミリー単位で扱い、「推定保有数=各社の5G宣言SEP件数×各社の規格整合率」で算出します。規格整合率は、各社の登録特許から10%以上を目標に抽出し、宣言規格の仕様と請求項を比較評価して求めます。全体の整合率の平均は40%です。標本数や推定保有数の総数は、公開資料には記載がありません。詳細は有償の調査報告書で提供されています。
CAICT(中国) ※公開情報のみ
2017年1月1日から2026年2月28日までのETSI宣言を対象に、Derwentで検索し、INPADOC同族に展開しています。宣言された5G SEPは15.9万件超、有効な特許ファミリーは11.06万超です。報告書は、掲載する特許が規格との照合分析を経ておらず、真の必須特許の分布を示すものではないと明記しています。
4.公表された順位――NTTドコモの位置
各レポートが公表している順位と、日本の代表的な5G権利者であるNTTドコモの位置は次のとおりです。順位の基準が異なるため、行ごとに「何の順位か」を併記しています。
レポート(公表年) | 順位の基準 | 公表の範囲 | NTTドコモ |
サイバー創研(2026) | 必須性評価に基づく推定保有数のシェア | 主要企業のシェア | 3位(8.1%) |
GreyB(2024) | コアSEP保有数(全件評価) | 公開版は上位6社。7〜10位は同社が本稿のために提供 | 7位(513ファミリー、6.45%) |
CAICT(2026) | 有効な宣言ファミリー数 | 上位10社 | 10位(3.72%) ※登録ファミリーでは9位(3.49%) |
PA Consulting(2025) | 宣言ファミリー数(公開部分) | 公開情報の数値。必須性評価後の順位は有償で非公開 | 11位(2,122ファミリー) |
LexisNexis(2026) | 3指標の順位の平均 | 上位50社(本稿では1〜12位を後掲) | 12位 |
Patently(2026) | Establishedの宣言ファミリー数 | 上位100社(全表を掲載) | 上位10社に含まれず |
Clarivate(2024) | コア5G特許ファミリー数(全件評価) | 上位6社(7位以下は非公表) | 上位6社に含まれず |
出典:各社公表資料、および筆者の質問票調査への各社回答(2026年9〜10月)。PA Consultingの順位は、同社の確認により宣言ファミリー数に基づくもの。
LexisNexis Table 1(1位〜12位)
LexisNexisの許諾を得て、同社レポートのTable 1から、1位から12位までを同じ形式で示します。各列は、5G宣言ファミリー数のシェア、Patent Asset Indexのシェア、3GPP技術寄書のシェアで、括弧内はその指標での順位です。総合順位は、3指標の順位の平均です。
総合 | 保有者 | HQ | 5G宣言 ファミリー数 | Patent Asset Index | 3GPP 技術寄書 |
1 | Huawei | CN | 13.52%(1) | 13.78%(2) | 16.22%(1) |
2 | Qualcomm | US | 9.19%(2) | 14.74%(1) | 6.46%(4) |
3 | Samsung | KR | 7.53%(4) | 11.14%(3) | 6.14%(5) |
4 | Ericsson | SE | 6.87%(5) | 5.59%(5) | 13.70%(2) |
5 | LG Electronics | KR | 7.67%(3) | 7.57%(4) | 3.01%(10) |
6 | ZTE | CN | 6.20%(6) | 4.98%(6) | 6.04%(6) |
7 | Nokia | FI | 5.54%(7) | 3.81%(8) | 10.88%(3) |
8 | vivo | CN | 3.94%(9) | 2.76%(10) | 2.64%(11) |
9 | CICT(注) | CN | 3.79%(10) | 2.35%(14) | 4.17%(7) |
10 | Oppo | CN | 5.52%(8) | 2.50%(13) | 2.06%(14) |
11 | Apple | US | 2.89%(14) | 3.15%(9) | 1.95%(16) |
12 | NTT Docomo | JP | 3.06%(13) | 1.73%(15) | 2.28%(12) |
出典:LexisNexis, Who Is Leading the 5G Patent Race? 2026, Table 1。(注)CICT Group + CICT Mobile。5G宣言ファミリーとPatent Asset Indexは2025年10月31日以前の宣言(登録特許を1件以上含むもの)、3GPP技術寄書は2015年1月1日〜2025年10月31日。シェアは同社の許諾を得て掲載したものであり、報告書(顧客向け版)の転載ではありません。
おわりに
本稿は、各社の回答と公開資料を、同じ項目で並べて整理したものです。調査にご協力くださった各社のご担当者に、厚く御礼申し上げます。本稿における整理と記述の責任は筆者にあり、LexisNexisを含む各社の公式見解を示すものではありません。
次回のPART2では、この比較を踏まえて、SEPレポートの品質と開示のあり方、そして利用する側がその数値をどう読み、どう引用すべきかを考えます。
各社レポートへのリンク
本稿で取り上げた各社のレポートは、次のWebページから確認できます(2026年10月時点)。無償で全文を入手できるものと、概要のみ公開のものがあります。
・LexisNexis:Who Is Leading the 5G Patent Race? 2026(公開ページ。全文は同社の入力フォーム経由) https://www.lexisnexisip.com/5g-report-2026/
・GreyB:Who Owns the Core 5G Technology? 5G SEP Report 2024 https://greyb.com/resources/reports/5g-sep-report-2024/
・Clarivate:Demystifying the 5G Standard Essential Patent Landscape: Phase 4 https://clarivate.com/blog/demystifying-the-5g-standard-essential-patent-landscape-phase-4/
・PA Consulting:2025年7月版のプレスリリース(報告書全体は有償) https://www.paconsulting.com/newsroom/pa-consultings-2025-5g-report-identifies-increasing-imbalance-in-5g-essentiality-ratios-1-july-2025
・Patently:Patently 100 Cellular 2026 https://patently.com/patently100
・サイバー創研:5G-SEP関連の分析結果(第8版)のプレスリリース(2026年3月30日。詳細は有償の報告書) https://www.cybersoken.com/topics/1097/
・CAICT:Global 5G Standard Essential Patents and Standards Proposals Research Report (2026) の発表記事(CAICT知識産権センター、英語) https://www.linkedin.com/pulse/caict-intellectual-property-center-releases-sxy9c/
詳細比較表は以下に添付します。



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