5G SEPレポートを読み解く:6主要レポートの比較分析 Comparing 6 Major 5G SEP Reports
- Toshi Futamata
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更新日:1 日前
Feb. 11, 2026 by Toshi Futamata
Executive Summary
2025年から2026年、市場において5Gの普及は加速しているが、2025年現在、世界の5G標準必須特許(SEP)は約6万7000ファミリーに達し、2019年のRelease 15で5Gのベースが固まった時から5倍に膨張している。その後、主要な調査会社から6本のレポートが公開されている。しかし、その分析手法と結果には大きな差異が見られる。
主要な発見:
· SEP数の爆発的増加が課題:Release 15以降の「増分的な強化」フェーズで、IoT、車載、家電など用途拡大に伴い登録件数が急増
· 必須性判定の困難さ:各社のサンプリング手法や必須率の算出方法が異なり、ランキングにバラつきが生じている
· 調査手法の透明性に大きな差:LexisNexis(旧IPlytics)が最も詳細に手法を公開するが、調査手法の開示には大きなばらつきがある。
· 5GのSEP保有件数ランキングについては、クアルコム、ファーウエイを上位とし、中国勢の台頭を示しながらトップ10はかなり類似するが、日本のサイバー創研のみ、トップ3をファーウエイ、サムスン、ドコモとし、ドコモが突出している。その理由は「整合推定SEP保有率」という独特の指標を導入しているためである。
以下、各レポートの特徴と課題を客観的に分析し、読者が適切にレポートを評価できるよう情報を提供する。
1. 5G SEPの現状:なぜ分析が困難になったのか
1.1 SEP数の爆発的増加
2025年10月末現在、世界全体における有効な5G特許ファミリーの累計数は約6万7000件に達している。これは5G Release 15が確定した2019年の1万3000件から5倍に膨れ上がった数字だ。
さらに、技術的な寄書数(編集上の修正や議題項目を除く)は2024年に9万件超と過去最多を記録した(LexisNexis調べ)。
1.2 標準化フェーズの変化
この急増の背景には、5G標準化のフェーズ変化がある:
· Release 15(2019年完了):5Gの基礎となる仕様の確定
· Release 16/17以降:「増分的な強化(incremental enhancements)」フェーズ
· IoT、車載、家電など多様なユースケースへの対応
· それに伴う特許件数の増加と権利化手法の変化
1.3 必須性判定の複雑化
Release 15以前と異なり、必須性を確定するための手法が大きく変化した。膨大な特許数に対して、どのようにサンプリングを行い、どう必須性を評価するかが、各調査会社の「クセ」や場合によってはバイアスを生む要因となっている。
2. 6つの主要レポートの概要と特徴
2.1 LexisNexis(旧IPlytics)- 米国
公開日:2026年1月26日
レポート名:"Who Is Leading the 5G Patent Race 2026?"
分析手法の特徴:
3つの評価軸による複合的評価
l 登録かつ有効な5G宣言特許ファミリー数
l Patent Asset Index(技術と市場)によるポートフォリオ評価
l 3GPPにおける技術的寄書件数
「Cellular Verified」プログラム:SEPの質を検証
詳細な手法開示:
· 公式サイトで手法を詳細に公開
· YouTube(2024Nov11 by Tim Pohlmann)で「Closing the SEP Transparency Gap」として、データクレンジングプロセスを実例解説
Top 10ランキング(複合評価):
1. Huawei(中国)
2. Qualcomm(米国)
3. Samsung(韓国)
4. Ericsson(スウェーデン)
5. LG Electronics(韓国)
6. ZTE(中国)
7. Nokia (フィンランド)
8. Vivo Holdings(中国)
9. CICT (中国)
10. Oppo (中国)
国別シェア
• 中国:32.97%
• 韓国:27.07%
• 欧州:16.98%
• 米国:14.13%
• 日本:8.84%
評価:
· ✅ 手法の透明性が最も高い
· ✅ 複数の指標による多角的な評価
· ✅ データクレンジングプロセスを詳細に公開
2.2 サイバー創研(Cyber Creative Institute)- 日本
公開日:2025年6月(第7版)
レポート名:「5G-SEP関連の分析結果(第7版)」
分析手法の特徴:
· 寄書をもとに手作業で分析
· 「5G整合推定SEP保有率」を算出
· 計算式:各社の5G宣言SEP件数 × 各社のサンプル抽出特許の規格整合率
· サンプリング:各社登録特許から10%以上を抽出し、宣言規格の仕様と請求項を比較
· 日本企業の高い必須率(整合率)を強調
推定Top 10(第6版との比較による社名筆者当てはめ):
1. Huawei
2. Samsung
3. NTT DOCOMO
4. LG Electronics
5. Qualcomm
6. ZTE
7. Ericsson
8. Nokia
9. VIVO
10. OPPO
課題:
· ❌ サンプリング手法の詳細が非公開
· ❌ 規格整合率の判定基準が不明確
· ❌ 第7版の詳細は有償、トピックス欄での概要公開のみ
2.3 GreyB - インド
公開日:2025年版
レポート名:"5G SEP Ownership Report 2025"
分析手法の特徴:
必須宣言された約8.8万ファミリーのうち、55,000ファミリー(2024年12月現在)に焦点
574ファミリーをサンプルとして手作業でレビュー
評価:
· △ サンプル数が明示されている点は評価できる
· ❌ 詳細な分析手法が非公開
2.4 PA Consulting - 英国
公開日:2025年7月(Q2 2025)
レポート名:"5G Standard Essential Patents Transparency"
分析手法の特徴:
· 階層別サンプリングとサンプル特許への手動技術レビュー
· Step 1からStep 4までの必須分析手法を開示
· 必須率(Essentiality Ratio)の透明性を重視
主要な発見:
· Top 25社における必須率は10%〜90%と大きくばらつき
· 全体的な必須率は50%以下
· SEPの70%はRAN技術に関連
Top 11(現在保有する宣言ファミリー数、主要国での登録あり):
1. Huawei - 8,519
2. Qualcomm - 5,661
3. Samsung - 5,260
4. LG - 5,224
5. ZTE - 4,391
6. Ericsson - 4,372
7. Nokia - 4,058
8. Oppo - 3,304
9. Vivo - 2,463
10. CATT/Datang - 2,412
11. NTT Docomo - 2,122
注目点: NTT DocomoがCATT/Datang、Vivoを下回る順位に後退
評価:
· ✅ 分析手法のステップを明示
· ✅ 必須率のばらつきを指摘し、透明性を重視
2.5 Patently(Questel)- 米国
公開日:2026年1月23日
レポート名:"The World's Leading 5G SEP Owners 2026"
TOP 10(5G SEPファミリーの分布 2026年)
1. Huawei 13.4%
2. Qualcomm 9.3%
3. LG 7.9%
4. Samsung 7.8%
5. Ericsson 6.9%
6. ZTE 6%
7. Nokia 5.5%
8. Oppo 5.5%
9. Vivo 3.9%
10. Datang 3.7%
Others 30.1%
評価: △ 詳細な分析手法の情報が限定的
2.6 中国CAICT(中国信息通信院)- 中国
最新版:2024年版(2025年末〜2026年初頭に統計速報)
レポート名:「全球5G標準必須特許及標準提案(2024〜2025年版)」
調査機関: MIIT(工業情報化部)直属の研究機関
主要な主張:
· 中国企業のETSIにおける5G SEP宣言数が42%で世界トップ
· 5極特許庁すべてに出願された特許を分析し、中国企業の質的向上を主張
· 3GPPへの寄書数でも中国勢(Huawei、ZTE等)が圧倒的
背景情報: 中国における5G市場普及率:80〜90%
評価:
· △ 中国政府系機関のレポートであり、政策的な意図を考慮する必要がある
· △ 詳細な手法開示は中国語フルレポートのみと見られるが、開示が遅い
3. レポート間の主な相違点
3.1 手法の透明性
レポート | 透明性 | 詳細開示の程度 |
LexisNexis | ⭐⭐⭐⭐⭐ | 非常に高い(動画解説、詳細PDF) |
PA Consulting | ⭐⭐⭐⭐ | 高い(ステップ別手法開示) |
GreyB | ⭐ | 非常に低い(サンプル数のみ開示) |
サイバー創研 | ⭐⭐ | 低い(概要のみ、詳細有償) |
Patently | ⭐⭐ | 低い(限定的情報) |
CAICT | ⭐⭐ | 低い(中国語のみ詳細版) |
3.2 評価手法の違い
· LexisNexis:複合指標(特許数+質+寄書数)
· PA Consulting:必須率の透明性重視
· サイバー創研:規格整合率による補正
· CAICT:宣言数と5極特許庁での登録状況
3.3 ランキングの違い
各レポートで上位企業はおおむね一致するものの、順位には差異がある:
· Huawei:ほぼ全レポートで1位または上位
· Qualcomm vs Samsung:レポートにより2〜4位で変動
· 日本企業の評価:
· サイバー創研:NTT Docomoを3位と高評価
· LEXISNEXIS:NTT Docomoを12位と評価
· PA Consulting:NTT Docomoを11位(CATT/Datang, Vivoより下位)
· Patentley/Questel: NTT Docomoをtop10に入らないと評価
4. 各レポートの課題と考察
4.1 LexisNexisの強み
事実:
· 手法の詳細開示が最も充実
· 複数指標による多角的評価
· データクレンジングプロセスを動画で解説
筆者の評価:
本稿で検討した6本のレポートの中で、LexisNexisが最も信頼性が高いと考えられる。 その理由は:
l 手法の透明性が圧倒的に高い
l Patent Asset Indexという質的評価を含む
l 第三者が検証可能な形で情報を公開
4.2 サイバー創研の課題
事実:
· サンプリング手法の詳細が非公開
· 規格整合率の判定基準が不明
· 詳細版は有償
· 日本企業の整合率を強調
懸念点(筆者の推測):
手法の開示が進んでおらず、企業バイアスが残る印象が指摘されている。特に:
· NTT Docomoの3位評価は他レポートと大きく乖離
· 日本企業の「高い必須率」を強調する姿勢
· サンプリングや判定基準の非公開
注: これはあくまで推測であり、詳細な手法が開示されれば評価は変わる可能性がある。
4.3 PA Consultingの貢献
評価:
· 必須率のばらつき(10〜90%)を明示した点は重要
· 全体的な必須率が50%以下という指摘は、宣言数だけでの評価の危険性を示唆
· ステップ別の分析手法開示は透明性向上に貢献
4.4 CAICTの位置づけ
事実:
· 中国政府MIIT(工業情報化部)直属の研究機関によるレポート
· 中国政府はETSIにおける5GSEPの宣言数が「42%」と世界トップという発表をおこない、あわせて5極特許庁すべてに出願された特許について分析を行い、中国企業の質的向上を主張する。
考慮すべき点:
· 政策的な意図を考慮する必要がある
· 但し、中国の5G市場普及率80〜90%は事実であり、国内市場での実装状況は重要文脈
5. 結論:レポートをどう読むべきか
5.1 単一レポートへの依存を避ける
5G SEPの評価において、単一のレポートに依存することは危険である。その理由は:
12. SEP数の爆発的増加:Release 15以降、件数が5倍に増加し、全数調査が事実上不可能に
13. サンプリング手法の差異:各社が異なるサンプリングと評価基準を採用
14. 必須性判定の困難さ:必須率が10〜90%とばらつく現実
5.2 複数レポートのクロスチェックが重要
以下のアプローチを推奨する:
15. 手法の透明性を重視:LexisNexis、PA Consultingなど開示度の高いレポートを優先
16. 複数レポートの比較:少なくとも3つ以上のレポートを参照
17. バイアスの認識:各レポートの背景(国、資金源、顧客)を考慮
18. 事実と推測の区別:宣言数(事実)と必須性評価(推測を含む)を区別
5.3 今後の課題
5G SEPの透明性向上には、以下が必要と考えられる:
· 業界標準としての評価手法の確立
· サンプリング基準の統一または明示
· 必須性判定プロセスの透明化
· 独立した第三者機関による検証
参考リンク
レポート原本
l LexisNexis 5G Report 2026(英語)https://www.lexisnexisip.com/5g-report/
l LexisNexis 5G レポート 2026(日本語)https://www.lexisnexisip.jp/5g-report-2026/
l サイバー創研 第7版プレスリリースhttps://www.cybersoken.com/topics/1030/
l GreyB 5G SEP Report 2025 https://greyb.com/resources/5g-sep-report-2025/
l PA Consulting 5G SEP Transparency Report https://d3tecgj53zm4r7.cloudfront.net/assets/uploads/467500_5G_SEP_Lite_Report_2025_v04.3.pdf
l Patently 5G SEP Report 2026 https://www.questel.com/resourcehub/the-worlds-leading-5g-sep-owners2026/
l CAICT 英語サマリー https://gma.caict.ac.cn/en/plat/news
l CAICT 中国語レポート https://www.caict.ac.cn/english/research/whitepapers/
免責事項: 本記事は公開情報に基づく分析であり、各レポートの評価は筆者の見解を含みます。レポートの詳細な内容については、各社の原本を参照してください。
最終更新: 2026年2月


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