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 (SEP研究会セミナー)SEP重要判例研究 (7件検討)後編   7 Must-Know SEP Cases(Part 2)

後編  Willing Licensee基準・日本の展開

l  独(BGH):Sisvel v Haier事件(第一・第二判決)(発表:高橋弘史弁理士)

l  欧州(UPC):Panasonic v Oppo事件 (発表:高橋弘史弁理士)

l  日本:Pantech v Google事件(東京地裁)(発表:設楽隆一弁護士)


1.     🇩🇪独(BGH):Sisvel v Haier、2020年5月・2021年11月(第一・第二判決)(発表者:高橋弘史弁理士)

(発表者イントロ) ドイツ連邦通常裁判所(BGH)が2020年に相次いで下した本判決群(KZR 36/17およびKZR 35/17)は、FRAND訴訟においてHuawei v. ZTE事件のEU司法裁判所(CJEU)による先決判決後に、EU加盟国の国内裁判所としては初の最高裁による判断を示したものである。CJEUが示した「交渉プログラム」を行為規範と位置づけ、SEP権利者および実施者の双方に誠実交渉義務があることを明確にした点に意義がある。

Orange Book Standardとの関係

BGHは、Orange Book Standardにおいて、いかなる場合に、差止請求権の抗弁として競争法上の強制ライセンスを主張できるかを判示していた。その要件は、①実施者が無条件のカウンターオファー(権利者がこれを拒否すると競争法違反となるようなもの)を提示していること、②過去の実施行為についてライセンス義務(決済報告や妥当な実施料の支払い-供託-)を果たしていることであり、実施者の負担が大きく、差止めリスクが高く、権利者優位の判決と言われていた。

しかし、BGHはEU法の優越性によりCJEU判決との適合解釈義務を負う。CJEU判決と抵触する解釈としてはOrange Book Standardは判例法としての効力を持たない。Sisvel v. Haier事件FRAND抗弁Iでは、SEP権利者が差止めの請求によってその特許権を行使できることを確認し(段落69)、一方で、競争法上の強制ライセンスの義務は実施者がその特許のライセンスを合理的で非差別的な条件で取得する準備があることを不可欠の前提とする(段落70)ことを明示した。すなわち、実施者がライセンスを受ける意思を明確に示さなければ、抗弁を主張するための前提を欠くことになる。その上で、双方向の誠実交渉義務という新たな枠組みへの転換を確立した。この文脈で上記Orange Book Standardの要件をCJEUの「交渉プログラム」に組込むように再定義している(段落71)。


ステップ1について

FRAND抗弁I(KZR 36/17)では、原告は被告に十分ではないが対象特許の侵害及びFRAND条件でライセンスする準備があることについて通知していた。このことをもって十分と判断した(段落84)。実施者は、侵害行為の種類並びに侵害と主張された実施態様の特定を必要とするが、詳細な技術的説明までは必要ではないとし(段落85)、実施者は、場合によっては法律家を雇うことによって専門知識の助けを借りてでも、特許権侵害と主張された立場を理解する状況に置かれており、裁判例で広く知られている「クレームチャート」を用いた侵害の説明は十分であるが、強制的に求められるものではない、と判示した点(段落85)には留意が必要である。


ステップ2について

FRAND抗弁Iでは、すべての利用者に同じ条件でライセンスする義務はなく、契約の合理的な条件は客観的に決められるものではなく、市場のプロセスが把握されるに過ぎず、そのため、「合理的な契約条件で取引をするにはライセンスを受ける意思のある企業の誠実で且つ目標に向けた協力が重要である」とし(段落81)、実施者は特許権者とライセンス契約を合理的で且つ非差別的な条件で締結することを、実施者の側で明らかに且つ明確に表明しなければならず、その上で、継続してライセンス交渉に向けて協力することを求めている(段落83)。FRAND抗弁II(KZR 35/17)でも、「継続してライセンスを受ける準備があることは、ライセンス交渉を成功させる不可欠の前提であり、それと共に、それが失敗したときには特許権者に対する市場支配的地位の濫用を主張する際にも不可欠の前提となる。」と繰り返す(段落66、68)。遅延戦術の禁止はこの継続義務の裏面として位置付けられる。


本件の具体的帰結

本件において実施者Haierは、侵害警告から1年以上沈黙した後に行ったライセンス受諾の意思表明が遅延かつ不十分であるとして、willing licenseeの要件を満たさないと認定され、FRAND抗弁は認められなかった。FRANDを客観的に決められる条件ではなく交渉を通じて到達すべきレンジとして捉え、双方の誠実交渉義務を対等に課す本判決群は、ドイツにおけるSEP訴訟実務において現在も参照され続ける基礎判例である。

 

2.     欧州(UPC):Panasonic v Oppo事件 UPC Mannheim LD 2024年(発表者:高橋弘史弁理士)

(ブログ筆者イントロ)2023年6月に運用を開始したUnified Patent Court(UPC)が、稼働後約1年半で示したSEP判決として、欧州SEP実務界の強い関心を集めた事案である。UPCは、Huawei v. ZTE(CJEU 2015年)が確立した交渉プログラムを出発点としつつ、その後の欧州各国最高裁判決(独・Sisvel v. Haier、英・Unwired Planet、蘭・Philips v. Wiko等)を体系的に継承・統合する形で、FRAND交渉義務の枠組みを具体化した。

とりわけ注目されるのは、SEPを差止権の行使できない金銭的権利にすぎないとする英国控訴裁判所の立場を明示的に否定したこと、および、欧州委員会によるCJEU付託要請を斥けてCJEUの「交渉プログラム」を個々の事案に適用して判断することは各裁判所の仕事であると位置づけたこと、である。UPCは複数のEU加盟国にまたがる特許権を一体として扱う新たな司法機関であり、今後のSEP訴訟において果たす役割は大きい。本件は、UPCがSEP・FRANDの問題にいかなる姿勢でアプローチするかを知る上で、現時点において最も重要な判例の一つとなっている。

 

3.     🇯🇵日本:Pantech v Google事件(東京地裁)2025年 (発表者:設楽隆一弁護士)

(ブログ筆者イントロ)

東京地方裁判所は2025年6月23日、パンテックのLTE標準必須特許に基づく差止請求を認容し、GoogleのPixel 7の日本国内での販売等を差し止める判決を言い渡した。

本判決の枠組みは、2014年の知財高裁大合議判決(Apple v. Samsung)が定立した「FRAND宣言SEPの差止請求は原則として権利濫用、ただし実施者に誠実交渉意思がない特段の事情があれば許容」という基準を踏襲している。本件でその「特段の事情」の認定を決定づけたのが、裁判所が大合議方式(最終製品売上高を起点とする算定方式)に基づいて提示した和解勧告をGoogleが拒否し、販売額・台数の開示も拒んだという訴訟内の事実であった。同一当事者間の仮処分審理ではGoogleに「受ける意思あり」として差止が却下されており、本案との結論の分岐はもっぱらこの和解勧告拒否に起因する。

英国Unwired Planet事件との類比でも語りうるこの手法は、裁判所主導の和解勧告が実施者の交渉態度の試金石として機能しうることを示したものであり、今後の日本のSEP実務に大きな影響を与えうる重要判例である。


 
 
 

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