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英国控訴審Nokia の主張を認め暫定ライセンスを取り消す Acer, Hisense, Asus v Nokia in UK CoA

May 17, 2026 by Toshi Futamata

Unsplash, Chris Lawton
Unsplash, Chris Lawton

【英国控訴院判決】Acer v Nokia [2026] EWCA Civ 564, 2026年5月12日 Arnold LJ


■ サマリー

AVC 及びHEVC 規格に係るSEPを巡るNokiaとAcer, Hisense, Asusの訴訟で、英国高等法院はNokiaの求める差し止めを却下し、AcerおよびASUSに暫定ライセンス宣言(interim licence declaration)を付与していた。しかし、控訴院はそれを取り消した。控訴院は「仲裁廷が決定するRAND(注1)条件はそれ自体がRAND」という論理を採用し、Nokiaの「調整可能ライセンスオファー」がRAND義務の履行に当たると判断。英国での本審理(RAND率の最終決定)も回避された。ただし英国の管轄権の存在は認めており、Nokiaの勝利は全面的といえるかは不明である。


■ 事実編

当事者と背景

本件はAcer・ASUSがNokiaのH.264/AVC・H.265/HEVCビデオコーデックSEP(ITU-T)についてグローバルRAND条件の決定と暫定ライセンス宣言を求めた訴訟である(Hisenseは控訴前に和解)。Nokiaは2025年3月以降、ドイツ・UPC・米国・ブラジル・インドで差止訴訟を提起。これに対しAcer・ASUSは2025年6〜7月に英国特許裁判所に提訴し、英国裁判所が決定するRAND条件でのライセンス受諾を無条件に約束した。

この訴訟提起後、Nokiaは「調整可能ライセンスオファー(Adjustable Licence Offer)」を提示した。これは受託と同時にグローバルライセンスが即時発効する構造を持ちつつ、最終RAND条件を仲裁廷に委ねるというオファーである。


高等法院判決(Mellor J、2025年12月)

Mellor Jは①管轄権を認め、②ケースマネジメントステイを拒否し、③暫定ライセンス宣言を付与した(暫定料率:1台あたり$0.365、うち$0.03は非返還)。NokiaのオファーはRANDオファーではなく仲裁プロセスへの誘いに過ぎないとして退けた。


控訴審判決(Arnold LJ、2026年5月)

管轄権(Nokia敗訴) Gateway 11の適用が認められ、管轄権に関するNokiaの控訴は棄却された。

ケースマネジメントステイ(Nokia勝訴) Arnold LJは三段階の論理を採用した。①Nokiaは即時のグローバルライセンスを提供している、②暫定ライセンス料率はRAND範囲にある、③「仲裁廷がRANDと判断する条件」はそれ自体がRANDであり、NokiaはRAND義務を履行している——。

この論理により、「Adjustable Licence Offerを拒否した実施者はRAND条件を拒否したことになり、willing licenseeの地位を失う。よって英国裁判所のRAND宣言管轄を利用できない」と判断し、ケースマネジメントステイを認容。6〜7月に予定されていた本審理は実施されないこととなった。

暫定ライセンス宣言(取消) STAY認容の結果、高等法院が付与した暫定ライセンス宣言は取り消された。


■ コメント編

Nokiaの「戦略的勝利」——しかし全面的ではない

Nokiaの本年6〜7月の本審理回避、暫定ライセンス宣言の取消、「調整可能仲裁オファーAdjustable Licence Offers(注2)=RAND義務の履行」という先例の確立——これらは実務上の勝利であろう。


ただしNokiaの「全面的勝利」と呼ぶには三つの留保がある。第一に管轄権の争いでNokiaは敗れており、Adjustable Licence Offer を提示しないSEP保有者に対する実施者主導のFRAND訴訟管轄は今後も維持されている。この先例の存在がNOKIA型オファーを実施者の防衛戦略として定着させるかは注目される。第二にArnold LJは判断への「躊躇(after some hesitation)」と「懸念(I confess that I am troubled)」を判決本文に明記しており、確信の上の判断ではない。躊躇の核心はおそらく三点——Warner Bros/Paramount矛盾の容認、パラ87の逆方向(注3)論理の意図的な留保、そして実施者が英国裁判所の救済から締め出されることへの規範的違和感——にあると読まれる。これほど明示的な留保を伴う判決が先例として安定するかは不透明であり、最高裁への上訴可能性も排除できない。

第三に、NokiaがWarner Bros/Paramount訴訟では、本事案とは異なり英国裁判所の決定を受け入れている矛盾が公式に記録され、「問題はあるが許容範囲内」とされた。

 

論理の核心とその問題点

本判決が確立した原則はシンプルだ——権利者が調整可能仲裁オファーを提示すれば、英国のRAND訴訟を封じられる。しかしNokiaは同時並行のWarner Bros/Paramount訴訟では仲裁を主張せず、英国裁判所による決定を受け入れている。つまりNokiaは、都合に応じて仲裁と英国裁判所を使い分けている。Arnold LJはこれを「問題はあるが、権利者はフォーラムを選ぶ権利がある」として容認した。結果として確立されたのは、仲裁を「中立的解決手段」としてではなく、権利者が実施者主導訴訟を阻止する武器として使えるという構造である。この控訴審の論理の実質的効果は、willing licenseeの地位を失った実施者を、英国裁判所による救済から締め出したことになる。


仲裁推進論のパラドクス

Arnold LJはかねてより「仲裁こそがSEP紛争の本質的解決策」と主張してきた。だが本件で実現したのはその理想とは異なる。仲裁の発動権は実質的に権利者側が握っており、実施者には「仲裁を受け入れるか、worldwide差止リスクを抱えたまま戦うか」という選択しか残らない。

実施者がオファーを受諾すれば差止リスクは即座に解消され、料率は仲裁後決定となる。問題はむしろ拒否した場合であり、「仲裁がRAND率を適正に決定するかを事前に評価する手段を持たない実施者に、受諾かグローバル訴訟リスクかを迫る」という構造にある。特にSMEや規格への新規参入者にとっては実質的な選択肢が存在しないに等しいとの批判もあり得るだろう。


■ 英国におけるInterim Licence

英国のinterim licence declarationは、Unwired Planet (2020 UKSC) 以来のFRANDをcontractual obligationとして構成する英国独自の法的フレームワークの延長線上にあり、実施者にとり、有力な対抗手段である。

 SEP保有者がinterim licenceの付与を拒否すること

     ↓

 FRAND commitment(ETSI IPR Policy)への違反

     ↓

 unwilling licensor

という論理構成である。


これはドイツ・UPCのHuawei v. ZTEフレームワーク(競争法上の義務として構成)とは根本的に異なる法理であり、interim licenceという発想自体、ドイツ・UPCでは生まれ得ない概念である。


英国では2024年10月のPanasonic v. Xiaomiを皮切りに、2025年1月のNokia (Alcatel-Lucent) v. Amazon、同年2月のLenovo v. Ericssonと、英国控訴院は立て続けにinterim licenceを認容する判決を4件出した。


この英国の動きは、当然ながら大陸欧州の強い反発を招いている。2025年9月、UPCのMannheimLDとドイツMunich地裁は、世界初となる「anti-interim license injunction(AILI)」を発令し、AmazonがInterDigitalに対して英国高裁に求めていたinterim licenceの申請を取り下げるよう命じた。 これに対し英国高裁は2025年10月20日、対抗措置としてex parte AASIを発令するという、まさに「ASI対AASI」の泥沼状態に突入していた。


そのなかでの今回の控訴審のLJ Arnoldのinterim licence取り消しは、Nokiaの他国での並行訴訟戦略に関してではなく、NokiaがAdjustable Licence Offersという仲裁での最終条件を決めるグローバルライセンスを提案し、それをAcer, ASUSが拒否したということが、interim licence取り消しの理由となった。


■ 補論 confidentiality

ICC仲裁は必要な部分の秘匿を除き、裁定を公表すべきとし、仲裁をブラックボックスにしてはならないと明言している。この条件は、仲裁の増加により比較可能ライセンスが市場から失われるという「vanishing comparables問題」への意識的な対応とも読める。LJ Arnoldは仲裁推進論者でありながら、その弊害を制度設計で手当てしようとした形跡として注目される。


(注1)RANDは実質的にはFRANDと同じ。ITU-TのためRANDとなる。

(注2)Adjustable Licence Offersとは、Nokiaが即時に暫定ライセンスを提示し、最終的なRAND条件はICC仲裁が決定し、それに応じて条件を調節すること。

(注3)今回確立された論理の方向は「権利者がAdjustable Licence Offerを提示 → 実施者が拒否 → 実施者がwilling licenseeの地位を失う」。「逆方向」とはその鏡像。「実施者が仲裁を申し出る → 権利者が拒否 → 権利者はunwilling licensorとなるか」


参考

控訴審判決本文(judiciary.uk)

一審判決本文(Mellor J, 2025年12月18日)


Kluwer Patent Blog (5月13日付)

"Come Together? Acer v Nokia and the Contractual Turn of FRAND Arbitration" Matthieu Dhenne(Dhenne Avocats)https://legalblogs.wolterskluwer.com/patent-blog/come-together-acer-v-nokia-and-the-contractual-turn-of-frand-arbitration/

最も水準の高い解説。Adjustable Licence Offerが「仲裁という形式を通じたFRAND義務の履行」として機能するという法的構造を詳細に論じている。判決の各パラグラフへの脚注が充実。


IPFRAY(5月12日付)

"UK appeals court permanently stays Acer, ASUS FRAND cases against Nokia" Florian Mueller

即時情報性に優れるが、独自の解釈が加わることがある。

 
 
 

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