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ドイツGRUR誌が注目した東京地裁パンテック対グーグル判決 Japanese SEP Practice in GRUR Patent: Pantech Google Decision

A PDF of the English article by Tomimoto et al., published in GRUR Patent, can be found at the end of this post.


June 21, 2026 by Toshi Futamata


ドイツの代表的知的財産専門誌「GRUR Patent」(2026年239号)に、冨本晃司弁護士(北浜法律事務所、パートナー)、大須賀滋弁護士(同オブカウンセル)、鈴木充津彦弁護士(同アソシエイト)による英文論考「Japanese SEP litigation – from the 2014 Grand Panel decision to the 2025 Tokyo District Court's Pantech v Google Case」が掲載された。同誌は欧州、特にドイツのSEP/FRAND実務家の間で広く読まれる、影響力の大きい媒体である。


冨本弁護士の論考概要メモ(日本語)と英文GRUR論考(英文)PDFをご厚意で転載する。初めにいただいた情報を踏まえ、ブログ筆者が論考を要約・紹介する。

対象は、東京地裁令和7年6月23日判決(令和5年(ワ)第70501号)、いわゆるパンテック対グーグル事件である。


1. 「11年の空白」の起点——2014年大合議決定

論考はまず、2014年5月の知財高裁大合議決定(Apple対Samsung)を出発点に置く。同決定は、FRAND宣言した特許権者の差止請求を権利濫用(民法1条3項)として制限する一方、実施者が「ライセンスを受ける意思を欠く者(unwilling licensee)」と認定されるための要件を厳格に解した。その結果、実施者によるホールドアウト(交渉の不当な引き延ばし)を事実上排除することが困難となり、日本は同決定以降約11年間、FRAND訴訟判決が一件も出されない空白期間に陥ったと著者らは指摘する。


2. パンテック対グーグル事件——裁判所主導の和解協議が分水嶺に

この空白を破ったのが、2025年6月のパンテック対グーグル判決である。パンテックは、ETSI傘下のLTE標準SEPに基づき、グーグルの「Pixel 7」販売差止めを求めて提訴した。

論考が最も重視するのは、訴訟過程で裁判所が主導した和解協議である。裁判所は暫定的な侵害認定を示した上で、パンテックの日本特許に限らずグローバルなSEPポートフォリオ全体を対象とする和解を勧告し、大合議決定が採る「エンドプロダクトの売上を基準とする算定方式」に基づく和解案の提示をグーグルに求めた。しかしグーグルは、算定が過度に複雑になるとしてこの方式での提案を拒み、侵害製品の販売数量・価格も最後まで開示しなかった。

裁判所は、この対応を「自ら交渉の余地を排除したもの」と評価し、グーグルをunwilling licenseeと認定して差止請求を認容した。


3. 論考の評価——3つの着眼点

•       大合議決定の枠組み自体は維持——差止めが認められるのは実施者がunwilling licenseeである特段の事情がある場合に限られる、という基本構造に変更はない。

•       運用の実質的な緩和——unwilling licenseeの認定基準は維持しつつ、訴訟手続内での交渉態度を重視することで、認定の運用を実質的に緩和した。

•       グローバル和解を裁判所が主導した点が転換点——国内特許に限らずグローバルポートフォリオ全体を対象とした点は、FRAND条件が世界的かつ迅速に合意されるべきだという前提に立てば、日本のSEP訴訟における重要な転換点である。


4. 2026年1月の新プロトコル

論考は最後に、2026年1月に東京地裁知的財産権部が公表した訴訟プロトコル・調停プロトコルにも触れる。訴訟プロトコルでは、被告が販売数量・収益などの証拠を自発的に開示しない場合、裁判所がFRAND条件でライセンスを受ける意思を欠くと判断し得る旨が明記されており、今後の訴訟運営がパンテック対グーグル判決の方向性に沿って行われることを示唆している。調停プロトコルについても、調停不調の際の交渉経緯が後続の訴訟・保全手続に影響し得る仕組みとなっており、調停段階での交渉態度の重要性が一段と高まっている。


結び

著者らは、本判決を日本で長らく機能していなかったホールドアウト規制を具体的な交渉行動の評価によって実現した画期的事例と総括し、日本がグローバルなFRAND交渉基準に整合し、SEP訴訟の場としての機能を取り戻すための重要な一歩になると期待を寄せている。


(本稿は、冨本晃司弁護士よりいただいた情報をもとに、GRUR Patent 2026, 239掲載論考の内容を要約・紹介するものです)


冨本弁護士 論考紹介メモ

今般の東京地判令和7年6月23日(令和5年(ワ)第70501号)のパンテック対グーグルに関するSEP訴訟の前提として、2014年のApple対Samsung事件における大合議判決について説明をしております。かかる大合議判決の結果として実施者(ライセンシー)側に著しく有利な状況を作り出したと指摘し、これにより「不誠実なライセンシー」の認定ハードルが極めて高く設定されたため、実施者による不当な交渉遅延(ホールドアウト)を制限することが実質的に困難となり、その影響でSEP訴訟において約11年もの実質的な「空白の期間」を生み出してしまったと考えられています。

 

今般のパンテック対グーグル訴訟では、日本で初めてFRAND宣言されたSEPに基づく差止請求が認められました。裁判所は、Googleが売上データや価格の開示を拒み 、裁判所が提示した計算手法に基づく和解案の提出も拒否したこと等の事実経過を踏まえ、自ら交渉の余地を排除した同社を不誠実なライセンシーと認定しました。筆者らはこの判決を、過去の大合議判決の枠組みを表面上は維持しつつも、実態としては不誠実なライセンシーの認定に関する解釈方針を緩和し、グローバルスタンダードに沿った解決を図ろうとする日本の裁判所の画期的な試みであると高く評価しています。特に、日本国内の特許だけでなくグローバルなSEPポートフォリオ全体を対象とした和解を裁判所が主導した点は、日本のSEP訴訟における転換点となる可能性があり、FRAND条件が当事者間の誠実な交渉によって世界的かつ迅速に合意されるべきだという前提に立てば、これは非常に意義深いアプローチであると筆者らは述べています。加えて、2026年1月に公表されたSEP訴訟及び調停プロトコルにも触れております。

 

この一連の動きが、日本をグローバルなFRAND交渉の基準に適合させ、SEP訴訟における魅力的なフォーラム(法廷)としての機能を再び取り戻すための一歩になるだろうと、今後の日本の知財実務に強い期待を寄せています。(冨本晃司)


GRUR掲載本文PDF

Tomimoto/Osuga/Suzuki: Japanese SEP litigation – from the 2014 Grand

Panel decision to the 2025 Tokyo District Court’s Pantech v Google Case

GRUR Patent 2026, 239



 
 
 

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