top of page
検索

英国SEP政策回答発表 The UK Government Response on SEPs: What Was Dropped and What Remains

4 時間前
読了時間: 4分

Photo: Unsplash Marcin Nowak
Photo: Unsplash Marcin Nowak

October 21, 2026 by Toshi Futamata


意見募集後 英国SEP政策は何をやめ、何を残したのか

The UK Government Response on SEPs: What Was Dropped and What Remains

英国政府「標準必須特許に関する意見募集への政府回答」(CP 1690)/英国知的財産庁(UKIPO)/2026年10月13日公表

 

英国政府は2026年10月13日、標準必須特許(SEP)に関する意見募集への政府回答を公表した。2025年7月の目玉であった、知的財産企業裁判所(IPEC)におけるFRANDレート決定トラック(RDT)と標準関連特許情報の強制開示は、いずれも採用されなかった。残ったのは、裁判所の早期判断、任意の意見サービス、ガイダンスなど、行政の関与を抑えた手段である。


1.事実関係

意見募集は2025年7月15日から10月7日まで行われ、回答は93件であった。権利者、大手実施者、自動車メーカー、プール運営者、専門家団体、中小企業が含まれる。政府は、権利者は市場が概ね機能していると述べ、実施者は市場の歪みへの介入を求めたとして、意見の二極化を指摘している。本稿は方向を示した回答を扱うものであり、個々の措置の設計と時期は、多くが今後の協議に委ねられている。


図 2025年7月の提案と2026年10月の英国政府(UKIPO)回答


2.三つの「やらない」は、行政が判断者になることを避けた結果である

今回の結論は、「三つの『やらない』と一組のソフトな措置」と整理できる。三つとは、RDT、UKIPOによる必須性チェックサービス、差止めの制限の、いずれも不採用である。

RDTは、料率決定を侵害・有効性・必須性の争いから切り分ける難しさ、FRAND評価の複雑さ、迅速化の不確かさから見送られた。必須性チェックは、政府が準司法的な役割(quasi-judicial role)を担うことへの懸念から退けられた。差止めは、法改正を支える証拠がないとして据え置かれ、代わりに誠実交渉のガイダンスが策定される。

三つに共通するのは、料率、必須性、救済という、当事者の利害が直接に衝突する判断を、行政に担わせなかった点である。「規制を弱めた」というより、「判断者の位置を動かさなかった」と読むのが適切であろう。

差止めについては、機能を確認しておきたい。Unwired Planet以来の英国では、実施者が裁判所の定める料率を受け入れれば差止めは出ず、拒めば出る。差止めは、料率判断に実効性を与える裏付けである。制限しないという結論は、英国が料率判断の管轄を保つ選択でもあるとみるのが自然ではなかろうか。


3.残った手段は、司法とソフトローに寄せられた

強制開示は、権利者による任意の情報提供に改められた。対象は将来の標準に限られ、UKIPOは必須性を検証しない。重大な不遵守が確認されれば、義務化を検討するとされる。

進める措置の中心は、既存の訴訟手続の下での早期中立評価(ENE)など、裁判所主導の早期FRAND判断と、UKIPOによる任意・非拘束のFRAND意見サービスである。後者は2026年秋に関係者協議が行われる段階にある。実施者側のFair Standards Allianceは「建設的な第一歩」としつつ、さらなる踏み込みがなければ交渉力の均衡は変わらないと警告したと伝えられる。Osborne Clarkeは、ENEが立場の固定化や費用増を招くおそれを指摘する。


ADRについては、SEP専用の新たな制度もUKIPOの調停サービスの拡充も設けない。回答者がADRサービスの欠如を主たる問題と見ていないとして、既存サービスの案内の改善とSEPリソースハブへの情報追加にとどめた。英国政府の重心は司法とガイダンスにあり、ADRは副次的な扱いである。


4.まとめ ― 何が試されるのか

今回の回答は、規制介入と司法の伝統の間で後者を選んだ。EUがSEP規則案を撤回した(2025年10月に官報で正式撤回)ことと併せ、行政主導の制度設計からの距離が両者に共通する。InterDigital対Amazon事件では、英国の暫定ライセンスをめぐり、UPCマンハイム地方部が反暫定ライセンス命令を出し、英国高等法院が反・反訴訟差止命令で応じたと報じられる。このような司法間の衝突が、行政の慎重さの背景にあるとみるのは自然であろう。ただし、政府回答がこれに言及しているかは確認できておらず、公式の理由は証拠と制度設計上の難しさである。


安定した均衡となるか、次の改革までの緩衝にとどまるかは、二点で決まると考える。第一に、早期FRAND判断が立場の固定化を避けつつ機能するか。第二に、非拘束の英国政府の意見が、国境を越えて他国の裁判所や当事者の交渉にどの程度の意味を持つかである。権利者側には概ね歓迎される結果である一方、実施者や中小企業には、任意で将来分に限られる情報提供だけでは交渉力の差が縮まらないという懸念が残る。

※ 本稿は2026年10月21日時点の公表資料に基づく。確認できていない点は断定を避けた。


参考資料

・Lewis Silkin「UK government charts a FRANDlier course on SEPs」(2026年10月19日) https://www.lewissilkin.com/insights/2026/10/19/uk-government-charts-a-frandlier-course-on-seps-102o5ui

・Osborne Clarke「UK government rows back on SEP licensing reforms following consultation」(2026年10月15日) https://www.osborneclarke.com/insights/uk-government-rows-back-sep-licensing-reforms-following-consultation

・Osborne Clarke「InterDigital and Amazon SEP saga heats up in latest Unified Patent Court judgments」 https://www.osborneclarke.com/insights/interdigital-and-amazon-sep-saga-heats-latest-unified-patent-court-judgments

・European Parliament, Legislative Train「Standard essential patents (SEP) regulation」 https://www.europarl.europa.eu/legislative-train/theme-a-europe-fit-for-the-digital-age/file-patent-licensing-package-1


 
 
 

最新記事

すべて表示
5G SEPレポートはどう作られ、どう使われるべきか(Part 2) Reading 5G SEP Reports​-- How They Should Be Made, and How They Should Be Used

October 13, 2026 by Toshi Futamata はじめに PART1では、5G SEPの分布を公表している7機関のレポートを同じ項目で並べ、評価を加えずに整理しました。見えてきたのは、同じ「5G SEP」という言葉の下で、何を数えるか、必須性をどう判定するかが機関ごとに大きく異なり、その結果として順位もシェアも大きく変わるという事実です。 本稿は、この比較を踏まえた筆者の意見

 
 
 

コメント


今年も年一回のグローバルSEPワークショップが、日本弁理士会との共催で実施されました

© SEP Research Group in Japan created with Wix.com

bottom of page