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(解説)独BGH第3のFRAND抗弁判決  BGH FRAND-Einwand III: Willingness as a Continuing Obligation

May 28, 2026 by Toshi Futamata


「実施者の誠実性」をめぐるドイツ最高裁カルテル部の第三判決

VoiceAge EVS v. HMD Global 2026年1月27日 | UPC Dolby v. Beko(3月18日)との連続で読む欧州大陸SEPコンセンサスの形成


【本解説のポイント】

BGHカルテル部(Kartellsenat)は2026年1月27日、VoiceAge EVS対HMD Global(KZR 10/25)においてFRAND-Einwand III判決を言い渡した。「Einwand」はドイツ語で「抗弁」を意味し、本件はSisvel v. Haierに始まるBGHのFRAND抗弁(Einwand)シリーズの第三作にあたる。FRANDライセンスへの誠実な意思(willingness)は交渉全体を通じた継続的義務であり、これを欠く実施者はドイツ特許法の比例原則すら援用できないと明示した。本稿ではあわせて、約2か月後のUPC Düsseldorf LDによるDolby v. Beko(3月18日)との連続性を整理し、BGH・UPC両輪でコンセンサスが形成されつつある現状を論じる。


1月判決をなぜ今取り上げるか

BGH判決(1月27日)はドイツ語原文での公表であり、実務的な分析が出揃うまで時間を要したが、Norton Rose Fulbrightなどの優れた解説記事(英文)が2026年5月に公表されたのを機にUPC Dolby v. Beko(3月18日)との関係も含めて改めて整理する。


FRAND抗弁(Einwand)判決系列 ― BGHカルテル部

 

「Einwand」はドイツ語で抗弁・異議を意味する。SEPの文脈では、実施者が特許権者の差止め請求に対してFRAND条件でのライセンス供与義務違反(市場支配的地位の濫用)を根拠に提起する競争法上の抗弁を指す。BGHはこれをFRAND-Einwandと呼び、カルテル部(Kartellsenat)の所管として一貫して審理してきた。事件番号のKZRはKartell-Zivilrecht(カルテル民事法)の略である。

 Photo: Unsplash

通称

事件番号

当事者

主要論点

FRAND-Einwand I

KZR 36/17

Sisvel v. Haier

Willingness testの基本枠組みの確立

FRAND-Einwand II

KZR 35/17

Sisvel v. Haier

Huawei/ZTE手順の柔軟適用・当事者行為の総合評価

FRAND-Einwand III(本件)

KZR 10/25

VoiceAge EVS v. HMD Global

Willingnessの継続的義務化・PatG §139比例原則への拡張

 

判決の6つの核心命題

 

カルテル部は本件において以下の6点を明示し、FRAND抗弁(Einwand)の法理をさらに精緻化した。



Willingnessは継続的義務

ライセンス取得意思(Lizenzbereitschaft)は交渉冒頭の宣言だけでなく、交渉全体を通じて継続していなければならない。特許権者の申込み後も同様。

Huawei/ZTEは形式的逐次適用を要しない

欧州委員会が求める硬直的適用を否定。実施者の行為全体から誠実性を評価すれば足りる。EuGHへの付託も不要と判断。

担保(Sicherheit)の供出は義務

HMDの当初供託€10,000は「著しく不十分」。USD 1 millionへの引き上げも控訴審終結後であり「少なすぎ・遅すぎ」と判断。

引き延ばし戦術はFRAND抗弁を消滅させる

最初の申込みへの回答に約5か月・秘密保持契約案への対応に8か月等が「赤旗行為」として具体的に認定。今後の実務カタログとして機能。

比例原則の抗弁(PatG §139)も遮断

ドイツ特許法§139第1文第3号の「不均衡を理由とした差止め否定」にWillingness要件を初めて明示的に拡張。最後の砦も失われる。

欧州コンセンサスの確認

ハーグ控訴裁・オランダ最高裁・UPCマンハイム・ミュンヘン等を参照し、当事者行為中心アプローチが欧州全体で収束していることをカルテル部自らが確認。


BGH → UPC Dolby v. Beko ― 約2か月で確認された収束

 

BGH判決から約2か月後の2026年3月18日、UPC Düsseldorf LDはDolby International AB対Beko Germany GmbH / Arçelik A.Ş.(UPC_CFI_135/2024 & UPC_CFI_477/2024)において同方向の判断を示した(当ブログ既報)。


判例の流れ

2020年 BGHカルテル部

FRAND-Einwand I・II(Sisvel v. Haier)― Willingness testの基本枠組み確立。Huawei/ZTEの柔軟適用を宣言。

 

2026年1月27日 BGHカルテル部 ← 本解説

FRAND-Einwand III(VoiceAge EVS v. HMD)― Willingnessの継続的義務化・比例原則への拡張。UPC各部を参照し欧州収束を確認。

 

2026年3月18日 UPC Düsseldorf LD

Dolby v. Beko/Arçelik(3rd UPC FRAND Decision)― 実施者がwillingnessを示さなければFRAND分析はその段階で終了。BGHと方向性が一致。UPC Mannheim LDとの整合も確認。

 

両判決に共通するのは、willingnessを先行評価し、これを欠く実施者にはFRAND抗弁(Einwand)の余地を認めないという立場である。BGHカルテル部がUPCを参照し、UPCがBGHと整合を確認するという相互補強の構造が明確になりつつある。


SEP実務への示唆

▶ 権利者側

ライセンス申込みを早期・完全な形で行い実施者の対応を詳細に記録する。交渉記録が「誠実性の証拠」として決定的優位につながる。

 

▶ 実施者側

形式的なwillingness宣言では不十分。迅速な回答・適切な担保供出・一貫した交渉姿勢が求められる。これを欠くとドイツ特許法の比例原則による最後の砦も失われる。

 

▶ フォーラム戦略

BGHカルテル部・UPCが相互参照により収束を確認したことで、欧州域内でのHoldd-out(引き延ばし)戦略の実効性が急速に低下している。

 

▶ ADR・調停との関係

willingnessの継続的義務化は「誠実な交渉者か否か」の評価軸を中心化するものであり、各地の調停(SEPJM・WIPO調停・UPC PMAC等)における当事者行動記録の重要性をさらに高めるだろう。


参考資料

BGH FRAND-Einwand III(KZR 10/25)

•       BGH判決原文(独語)― KZR 10/25, Urteil vom 27.01.2026 https://openjur.de/u/2542498.html

•       BGHプレスリリース(独語)― Kartellsenat, 27.01.2026 https://www.bundesgerichtshof.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2026/2026021.html

•       Norton Rose Fulbright解説(英語、2026年5月)― "BGH doubles down on implementer conduct" https://www.nortonrosefulbright.com/en-fr/knowledge/publications/81191cc6/

 

UPC Dolby v. Beko/Arçelik

•       UPC.law 判決サマリー(英語)― UPC_CFI_135/2024 & UPC_CFI_477/2024 https://upc.law/decisions/duesseldorf-local-division/

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