
2020年10月28日 日本経済新聞(朝刊)経済欄 私見卓見掲載
「次世代通信の標準化に注力を」 東京大学未来ビジョン研究センター二又俊文
次世代通信規格、5G時代に入り通信の位置づけは大きく変化した。コネクテッドカー、スマートシティなど、社会基盤としての応用分野は果てしなく広がる。5G通信は先端技術の塊といえる。製品の品質を担保し互換性を持つために重要なのが、国際的な策定期間を中心につくる標準規格だ。
5Gなどの標準規格に必須となる技術の特許は標準必須特許(SEP)という。特許数をみると、華為技術(ファーウェイ)を筆頭に、サムスン電子、LG電子、ノキア、中興通訊(ZTE)の5社だけで約6割を占める。各企業は事業ビジョンを実現する手段として標準化を進め、SEPを押さえる。日本勢にかつての勢いはない。代表的な標準規格策定機関のひとつ、3GPPには約700社が参加する。2800人あまりのエンジニアが、自社からの標準化提案を携え、数年にわたり規格策定に関わる。だが日本企業は各国の優秀なエンジニアと対等に議論できる人材の確保や海外出張の予算は、短期的な売り上げに直結しないとして削減してきたようだ。
標準化活動は将来の技術の流れを決め、世界市場をコントロールする基礎を作る。5Gの技術デザインはすでに7年以上前から始まっており、関連SEPは5年以上前から出願されている。我が国の国際標準化活動の停滞は、日本企業が技術開発や事業で世界をリードする力を削ぎ、できた標準を追う「追随者」に留まらせる。 技術標準の趨勢は個々の企業のビジネスに影響するだけではない。世界では経済安全保障が問題となっており、情報通信技術におけるポジションの維持は国の安保面からも重要だ。
次の6G研究はすでに始まっている。国は、ビジョンづくりの場を用意し国籍問わず多様な専門家の議論を促し、試行プロジェクトを支援する必要がある。企業は、自社が次世代通信とどのように関わるか、ビジョンを明確にすべきだ。知財・標準化活動には、グローバル視点での戦略思考が欠かせない。日本の強みを取り戻せるような技術分野に集中し、ヒト・モノ・カネを投入する戦略を官民で早急に構築すべきだろう。準備段階で将来は決まる。
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その1, その2(完) 日本知財学会(IPAJ) Qualcomm's impregnable IP model Wall
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